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2007年11月29日 (木)

<童話>ジュンちゃんとゴリラ

静まりかえった真夜中の病院の、小児科病棟の一室でのことです。
ぬいぐるみ人形のゴリラとウサギが、話をしています。
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「ねぇ、ゴリラさん!あなたって、なんてひどい姿をしているのかしら?体中よだれや手あかでコビコビに汚れているし、傷だらけよ。といっても、もともと色が黒いせいで、それほどには目立たないでしょうけれども・・・。とはいうものの、とてもお気の毒だわ」
「ふーん、ぼくのこと心配してくれてありがとう!でもね、ウサギさん、ぼくは今のぼくの姿に、とっても満足しているんだ」ゴリラはそうきっぱり言うと、かたわらに置いてあったおもちゃの笛をピィーと吹きました。

「まあまあ、負け惜しみの強いゴリラさんね。でも私をごらんなさいな。この純白に輝く美しい毛皮、ほんのりピンク色でピンと立った耳、小さなかわいい口元。本当は、私がうらやましいでしょうに・・・・・・。だってね、私の体にはシミ一つ、ついていないのよ」 ウサギはこう言うと、自慢げに胸を張りました。

「ウサギさん!君はちっとも知りやしないんだよ。僕のこの体のほころびやよだれや汗のにおいの、すてきな意味についてね」
「まぁ、変なゴリラなのね、あなたって!誰だって、美しい毛皮を身につけている方が、幸せにきまっているのに」


ゴリラはだまったまま、手に持っていた笛をピロピロピローと吹きました。
ゴリラは思い出していました。あのすてきな出会いの日のことを・・・。あれは、デパートのおもちゃコーナーでした。たくさんのぬいぐるみの動物に囲まれて、ゴリラはとてもひとりぼっちでした。
子どもたちは、コアラやパンダやウサギといった動物が大好きで、ゴリラになんて、なかなか心をひかれません。それもそのはず、色は真っ黒で目立たないし、ひどく間の抜けた顔をしていたからです。

でもあの日、ジュンちゃんと出会った瞬間、ゴリラは感じたのです。ジュンちゃんと自分との間に、深いきずなの心の橋が突然にできあがったことを!ュンちゃんは、さっとゴリラのすわっているところにやってきて、ゴリラをそっとやさしく抱きしめてくれたのです。
ジュンちゃんは5才のお誕生日を迎えたばかりの男の子でした。

「まぁ、ジュン!ゴリラさんがいいの?でも、あっちのコアラさんやウサギさんの方が、かわいいんじゃない?」と、ジュンちゃんのママがいいました。
「ううん、ボクはゴリラさんがいいの。だって、このゴリラさん、なんだかひとりぼっちでさみしそうなんだもの。ボクがお友だちになってあげなくちゃ!」

そして、その夜からジュンちゃんとゴリラは、いつも同じベットに眠り、いっしょに遊ぶようになったのです。遊園地に遊びに行く時には、ジュンちゃんは背中のリュックにゴリラを入れて、いっしょに連れて行ってくれました。もちろん頭だけは、リュックから出してくれましたから、ゴリラも遊園地を十分楽しむことができました。ゴリラは、ジュンちゃんの行くところには、どこでもお供しました。
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ある日、ゴリラはジュンちゃんと、ジュンちゃんのパパとママといっしょに、白くて大きな建物に入っていきました。なんだかプーンと、消毒薬のにおいがしました。たくさんの白い服を着た人たちが、忙しそうにあっちへ行ったり、こっちに来たりしていました。

そして、その次の日からジュンちゃんとゴリラは、この建物の一つのお部屋に住むことになったのです。
「ゴリラ君!ボクね、少しの間この病院に入院することになったの。ボクね、病気なんだって。それで、少し安静に寝ていなくちゃいけないんだって。でも・・・・・君がいつでもそばにいてくれるから、さびしくないよ」


初めのうち、ジュンちゃんはゴリラにいろいろ話しかけてくれたし、いっしょに遊んだりしました。でもやがて、いつもウトウト眠っていることが多くなりました。
そしてある日、お見舞いに来てくれた人が、純白のウサギのぬいぐるみを持ってきてくれたのです。でもジュンちゃんには、すでにそのウサギを抱きしめる力はなくなっていたのです。


「・・・だからね、君はそんなにきれいな真っ白の毛皮を持っているのさ」ゴリラは、ウサギにジュンちゃんとの出会いの初めからのことを、くわしく話してあげた後で、気の毒そうにウサギを見て、こう言ったのでした。
「でもウサギさんはね、ボクみたいにジュンちゃんと親しくなれなくって気の毒だなぁ。ジュンちゃんってね、本当はとってもゆかいな子なんだよ」


「まぁ、とても信じられないわ。だって、私の知っているジュンちゃんは、いつも目を閉じて、静かに眠ってばかりいるし・・・ジュンちゃんがお外を元気に走り回っている姿なんて、私にはとっても想像できないわ。
ねぇ、ゴリラさんお願いよ。せめて、あなたの知っているジュンちゃんのことを、私に話してくださいな」

そこで、ゴリラはウサギさんにジュンちゃんのことを、何日もかけていっぱい話して聞かせてあげました。ジュンちゃんのお気に入りの食べ物や遊びや、くせとか・・・なにもかも。

「ある時ね、ボクとジュンちゃんは、アフリカのボクの家族に会いに行くことにしたんだよ。リュックにおみやげの果物を、たくさんつめてね」そう言うとゴリラは、うっとりと幸せそうな顔をしました。Picture59blog
「まぁ、アフリカなんて、とってもとっても遠いところにあるのよ。二人で歩いてなんか行けやしないわ。うそばっかりいわないでよ。いやーね!」ウサギはそう言うと、つーんとすましました。

「うそじゃないんだ。ボクとジュンちゃんは夜ベットに入る前に、いろんな風なことを想像して心からそれを願うんだ。すると、いつの間にか二人とも、ちゃんと行きたいと願った場所にいて、やりたいことをやっているんだよ。そのかわり、そんな夜の次の日は、二人ともひどく朝寝坊をしてしまうんだけどね。

ある時は、エジプトのピラミッドのてっぺんでサンドイッチを食べたし、南極でペンギンたちと鬼ごっこもしたし、ラクダやゾウの背中にも乗せてもらったし。ジュンちゃんがここに入院してからも、今ほど容態が悪くなる前は、二人で世界中どこでも旅行したんだよ。本当に楽しかったなぁ!」 

それを聞いて、ウサギはあきれはてて、もうこれ以上話を聞く気がしないという表情をして、冷たく言いはなちました。
「実際に行ったわけではなくて、空想上で行ったつもりになっただけじゃないの。まったくあきれたひとね。そんなことなら誰にでもできるわよ。ばーかみたい!真剣に話を聞いてあげていたら、そんな作り話を始めるんだもの」Picture60blog

ウサギにすっかり馬鹿にされたゴリラは、なんだか哀しい気持ちになってうつむきました。そしてまた笛を手にすると、ピロピロピローと吹きました。

「ねぇ、ジュンちゃん!ボクたち、行ったつもりではなくって、本当に行ったんだよね。だって、目を閉じると今でも、いろいろな楽しい光景が、ありありと浮かんでくるもの。ねぇ、ジュンちゃん!あれは空想なんかじゃなかったよね」
でも・・・・ジュンちゃんは、夜の闇の中で静かに眠っているだけでした。そして、ウサギさんもいつの間にか眠りに落ちていました。

ゴリラはまた、そっとそっと笛を吹き始めました。
ピロピロピロー  ピロピロピロー

「あなたは、笛がお上手ね」
とつぜん、誰かがゴリラにそう話しかけました。やさしくって、なぜかなつかしい声です。ウサギさんの声ではありません。ウサギさんは相変わらずスヤスヤと軽い寝息を立てています。
「えっ、あなたはいったいどなたですか?」

すると、ゴリラのほほのあたりを、甘い花の香りがさっと通り過ぎました。

「私は、風の精よ。私は、世界中を旅しているわ。そう・・・エジプトも南極もアフリカも、あらゆる所を旅しているのよ。
私はあなたとジュンちゃんが大好き・・・だから、ときどき真夜中になると二人をこっそりと、世界中への旅に連れ出してあげたのよ。
あなたの見たものはすべて本物よ。夢なんかじゃないわ。といってもね、二人の体はそのままにして、心だけを私の透明な衣でつつんで、私の旅のお供をしてもらったのだけれども。
それに本当のことを言うと、これは星の王国の女王様のご希望でもあったのよ。

星の王国には、子ども村というのがあって、人間や動物たちのあらゆる子どもが住んでいるの。と言うか正確には、小さな子どもの時に地球での生命の火を消してしまったものたちが、住んでいるということなの。
世の中の楽しいこと、おもしろいことなどを、ほとんど何も知らないうちに、星の国に召されてしまった人間や動物の子どもたちは、毎日悲しそうな顔をして、なつかしい家族のことだけを思い出しているのよ。

星の女王様は、これではいけないわ!とお思いになって、私に相談なさったの。
時々この病室をのぞき見していた私は、あなたとジュンちゃんのことを、いろいろお話ししたわ。女王様はあなた達二人を、星の国の子ども村の吟遊詩人というかお話の語りべとして、ぜひお召しになりたいと思われたのよ。というのもね、女王様はご存じだったからなの。ジュンちゃんが悪性の病気におかされていて、地球上での命が、もう余り長くないことをね・・・。

そこで、ジュンちゃんの命がある間に地球のあらゆる場所を旅して、いろんな物を見たり、いろんなこと経験してきてほしかったのよ。これまでにあなたとジュンちゃんは、たくさんの悲しみ、喜び、美しさ、汚さを、世界中で見てきたわ。どうぞ、その同じものを、星の国の子供たちにも、いっぱい話してあげてくださいな」

風の精の話をじっと聞いていたゴリラは、思いつめた表情で言いました。
「えっ?でも・・・いつ、どうやったら、ボクとジュンちゃんは一緒に星の国へ行けるの?だってジュンちゃんの病気はとっても重くなってい、今では動くこともできないし、一言だって話すこともできないんだよ。
それとも星の国に行ったら、ジュンちゃんは今とはぜんぜん違って、自由に動き回ったり、おしゃべりしたりできるようになるのかなぁ?」

「それは大丈夫よ。ジュンちゃんは、あと数日で地球での命を終えることでしょう。そうしたら、私があなたとジュンちゃんの魂を迎えに、ふたたびここにやってくるつもりよ。星の国では、重い体は必要ないのよ。必要なのは心だけなの」

そして、それから3日後の真夜中のことでした。白いウサギは、淡い銀色の光の中で、はっきりと見たのでした。うす紫色の長い衣を身につけて、長い長い銀色に輝く髪をした美しい女の人が、ジュンちゃんのベッドの脇に立っているのを・・・。そして、ウサギは聞いたのでした。その女性が澄んだ美しいソプラノで、優しく呼びかけるのを・・・。
Picture61blog_2「ジュンちゃん!ゴリラさん!さぁー今夜が旅立ちよ」
「うん!待っていたよ。早くボクたちを星の国に連れて行ってね」と、ゴリラさんがうれしそうに答えたのでした。


ジュンちゃんも、幸せそうにほほえんでいるのが、銀色の光の中にぼんやりと見えました。

やがて・・・・・その女神のような女の人の腕の中に、透きとおったジュンちゃんとゴリラさんの体が、そっと抱かれているのを、ウサギは見たのです。
そして、突然、一陣の風が吹いたかと思うまもなく、すべてが真っ暗闇の中に消えていってしまったのでした。

ウサギは、なんだか胸がキュンとなって、泣きたくなりました。でも、けっして悲しいからではありません。とってもうれしかったのです!
そして、ウサギは思いました。
(あたしも、あたしのジュンちゃんをさがさなくちゃー!そうよ、その子にね、あたしをしっかり抱きしめてもらうのよ。このご自慢のまっ白のふわふわの毛が、灰色に薄汚れるまでね。そして、いっぱい、いっぱい、よだれや汗のにおいをつけてもらうのよ)
ウサギは、そう心を決めると・・・・・・すやすや眠りに落ちていきました。

それからしばらくたった、ある夜のことでした。ジュンちゃんのいとこの幼い女の子の胸にしっかり抱かれて眠っていたウサギは、夢の中で風の精がこう話してくれるのを聞いたのです。

「ウサギさん!ウサギさん!ジュンちゃんとゴリラさんはね、星の国へ行くと、すぐにみんなの人気者になったのよ。二人は、たくさんの子どもたちの前で、毎日、いろいろな世界めぐりの旅の話をしてあげているのよ。もう今では、星の国の子どもたちは一人残らず地球上のあらゆる所を旅した気分になっているの。子ども村からは、いつも明るい笑い声と、楽しげなおしゃべりがきこえてくるのよ。だって二人とも、とってもお話が上手なのですもの。
Picture63blog
それにね、笛の上手なゴリラさんは、星の国になんと子ども音楽隊を作ってしまったの。ときどきコンサートも開くのよ。そんな時、ジュンちゃんは独唱するの。ボーイソプラノで、とってもやさしく心を込めて歌うのよ・・・」

                 <おしまい>

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