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2007年11月 9日 (金)

<童話> コン吉と小夜

                              夕日  作

キツネのコン吉は、父ちゃん、じいちゃん、そしてそのまたじいちゃんと、代々続くコンコン神社の生き神様。コンコン神社は、小さな村の中心の小高い山の上にあったよ。

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じいちゃんに続いて、父ちゃんと母ちゃんが、病気で次々と急死したので、一人ぼっちになってしまったコン吉は、まだ小さいうちから生き神様になったんだ。見よう見まねで、じいちゃんたちがやっていたように、村人たちの悩みを聞いてやり、そのかわりに、わずかな食べ物のお供物をしてもらって暮らしていたよ。
でもね、相談に乗ると言ってもまだ子どものこと、ちゃーんとした答えができるはずもないからさ、いつもこう答えることにしていたよ。

「ふんふん、それは気の毒なこと!コンコンコン・・・もしも、3日間かかさずこのコンコン神社にお参りに来たなら、コンコンコン・・・・もちろん必ず何か捧げ物を持ってだが・・・お前の悩みはきっと解決するであろう。コンコンコン・・・」

大声でコンコンコン・・・と叫んで、その合間にすばやく言葉を話すのさ。それも、なるたけ低くて太い声を出すんだよ。そうすれば、まさか子どものキツネがしゃべっているとは、感づかれずにすむからね。そして、その次の日から3日間、コン吉は大好物のアブラゲやら、ホカホカのお饅頭にありつけるわけなんだ。

こんな風にして、何年かが過ぎたよ。
若者になったコン吉は、今ではすっかり生き神様になりきっていたのさ。
でもね、生き神様だったコン吉は、けっして村人の前に姿を見せることができなかったから、いつもひとりぼっちで、さびしかったよ。

ある日のことだったよ、コンコン神社に一人の若い娘がやってきたんだ。
色のあせた、つぎはぎだらけの着物を着てたけど、おかっぱ頭の笑顔のかわいい娘だったよ。でも今日はね、いつもの笑顔はなくて、そのかわりに二つのつぶらな瞳に、涙をいっぱいためていたんだ。Picture24blog
「あのぅ、コンコン様!心からのお願いがあります。
 どうかどうか、私の願い事を聞きとどけてくださいな!」
 コン吉はいつもと同じに、せいいっぱい太い声でこう答えたよ。
「我は絶大な神通力をもつ、コンコン様であるぞ。さあ、お前の悩みを話してみなさい。おっと、その前に、お供え物は忘れずに持ってきたことだろうな?」
するとね、その娘は悲しそうにうつむいて、今にも泣き出しそうになったんだ。
「やっぱり、お供え物がないとダメなのね。でも・・・それがわたしの悩みなの。
 お母ちゃんと私ね、二人暮らしなの。お父ちゃんは、わたしのまだ小さい時に、仕事中に突然倒れてきた木の下敷きになって、死んでしまったのよ。
それに、今ではお母ちゃんも、重い病気になってずっと寝たきり。
ちっとも良くならないの。でも、仕方がないの・・・・・。だって、お母ちゃんに栄養のある物を食べさせられないばかりじゃなくて、お医者さまに診せるお金もないんだもの。だからコンコン様に、何にもさしあげられないわ」
そこまで言うと、若い娘はとうとう、シクシク・・・・泣き出したよ。

それを聞いてコン吉は、こうどなるつもりだった。
「何だと?お供え物が一つもないだと?話にならんぞ。すぐに帰れ!」
それなのに、実際に口から出た言葉は、こうだったのさ。
「なにぃ?家に何にも食べる物がないだって?お前の母ちゃんの病気は、いったいどうなるんだ。それじゃ、治るはずがないだろう。

コンコン・・・コンコン・・・ えーいっ、やぁっと!

じ、じつは、さっきお前の来る少し前に、村のばあさまがこのコンコン様のために、つきたてのあんころ餅と甘いブドウをたくさん持ってきてくれたのだが、特別にお前に進ぜよう。すぐに家に持って帰って、母ちゃんと二人で食べるがよいぞ。ただし、その代わりに毎日お昼過ぎに、ここにお参りに来るんだぞ。そして母ちゃんの病気の具合を報告するんだぞ!」
そう言ったとたん、コン吉のお腹がグウーゥゥゥと鳴ったよ。
コン吉ったらさ、大あわてでお腹を押さえたんだ。

「さあー早く行けぇ!コンコンコン・・・」

娘は、涙を流してよろこんだよ。そしてコン吉が隠れている神棚に向かって、何度も何度もおじぎをしたんだ。
「コンコン様、本当に本当にありがとうございます!明日もあさっても必ず、ここにお参りに来ます。そして、お母ちゃんが元気になって働けるようになったら、きっときっと、たくさんのお供え物を持ってきます。約束しますから・・・・・・」
 娘は、あんころ餅とブドウを大切そうに抱えると、山をかけ下りていったよ。

「あぁ、良かったな。これでおいら、今晩も明日の朝も、飯にありつけないけど、まぁいいさ!おいら、ちょっぴり太りすぎで、お腹が出てきたしさ、少しやせないとタヌ公と間違われるかもしれないしね。ココンのコンコンと・・・
コン吉は、お腹は空いているのに、なんだか心がウキウキしてきたんだよ。
(へんだなぁ?こんな気持はじめてだなぁー。)
そう思いながら、コンコン神社のあたりを見まわすとね、今まで気づかなかった野の花たちが目にはいったんだ。
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「へぇ、こんなきれいな花が咲いていたなんて、ちっとも気がつかなかったやい!
なんだかおいしそうにみえるなぁー。ちょっと食べてみようかな?」
お腹がペコペコだったコン吉は、ピョンピョンあたりをとびまわりながら、次から次へと、いろんな花をかじってみたんだ。ちょっとやけくそになっていたんだね。
「フンフン、けっこういけるよ」 
たくさんの野の花の中には、蜜がたっぷり入っていて、舌がとろけるほどに甘いものや、とてもいい香りのするものがあったんだ。でもね、ひどくまずくって、ゲッと思わず吐き出してしまうものもあったよ。
おいしいのに当たったときは、とっても幸せな気分だった。

「この花は甘いかな?それとも、あっちのにしようかな?」
 と、コン吉は、あっちへ行ったり、こっちへ来たり大いそがしだったんだ。でもね、まるでパズルをしているみたいに楽しそうだったよ。
「キツネがね、それもコンコン神社の生き神様のキツネがだよ・・・・花を食べるなんて聞いたら、あの世にいるじいちゃん、ぶったまげるだろうな?」
コン吉はクスクス笑いながら、腕枕をして草むらに寝ころがったのさ。
「あの娘、かわいかったなぁー。明日も来てくれるかなぁー?」

やがて空が夕陽で真っ赤に染まる頃には、コン吉はすでに夢の世界で遊んでいたよ。どんな夢かって?ちょっとだけ教えてあげるね。広い広い花園で、あの娘と遊んでいる夢なんだ。Picture26blog

次の朝、コン吉は、ウキウキして目覚めたよ。
お堂の屋根で休んでいた小鳥の夫婦に「ねぇ、今日もあの娘が来ると思う?」と、とつぜん大声で話しかけたので、2羽はびっくりして、はるかかなたの森まで一気に飛んでいってしまったほどだった。

朝早くに、昨日のばあさまが、今度はたくさんのきなこ餅とリンゴを持ってきてくれたんだ。このばあさまの悩みとは、こうだったよ。
「コンコン様!家のおじいさんが1カ月前に亡くなってから、さびしくって、さびしくってねぇー。私たち夫婦には子どもがいなかったので、わたしは一人暮らし。でも、村の者はみんないそがしくって、こんな年寄りのグチなんて聞いてくれる者は一人としていないのさ。
幸い、おじいさんが広い畑を残してくれたので、食べるには困らないけれどもね。ひとりぽっちは、どうにもわびしくってね・・・・・。
でも昨日、コンコン様にたっぷりグチを聞いてもらったら、とても気持ちがすっきりしてねぇ。誰かに話を聞いてもらえるって、なんとうれしいのだろうね!」

そして、そのばあさまは、またいろいろとグチをこぼし始めたんだよ。
「おじいさんがのこしてくれた畑は、わたしのような年寄りばあさんには広すぎて、手が足りなくってね、今では草ぼうぼうなんだよ。村の若い衆はみな収入の多い町にあこがれて、遠くまで働きに出てしまったので、ここには年寄りや女子どもばかりしか残っていなくってね。だから、みんな自分の畑だけで手一杯なんだよ。
もし誰かが手伝ってくれる気があったら、畑でとれた作物の半分は、自分の稼ぎとして、手に入れられるのにねぇ。
それじゃ、コンコン様!今日もたくさんグチを聞いて下さり、本当にありがとうございます。明日もまた、来させてもらいますよ」
そしてばあさまは、ふたたびトボトボ・・・と山道を帰っていったのさ。

お供えのきなこ餅は、まだ暖かくてホカホカしていたよ。リンゴも甘酸っぱい匂いがプーンとして、コン吉の鼻をくすぐるんだ。
「うまそうだなぁー。どっちを先に食べようかな?」
と、舌なめずりしたコン吉の頭を、あの貧しい女の子の姿がよぎったよ。
「で、でもさ、このコン吉様だって、お腹がグゥグゥいっているんだよ」 そう言うやいなや「えいやっと!」と大急ぎで、きなこ餅を10個も次々と口に入れて、丸飲みしたから大変さ。喉詰まりをしてしまって、目を白黒させて・・・・やっとどうにか一息ついたというわけさ。
 そのくせに、
「あれっ?きなこ餅が全部なくなっちゃった!」なんて、言うんだからね。
「まあ、いいや!このリンゴをあの子にあげよう。でも・・・なんていい匂いがするんだろう。我慢できないや。3個あるから、1個くらいコン吉様が食べたって、かまわないだろうな。2個あれば、あの子と母ちゃんとで十分さ。 だってさ、このリンゴ、とっても大きいんだもの」
などとブツブツ言いながら、あきれかえったことに、そのリンゴも3個ぜんぶ、自分一人で食べてしまったよ。

さすが食いしんぼうのコン吉も、もうお腹が破裂しそうになって、バタンと横になってしまったよ。
それからしばらくして、あの娘がやってきたんだ。その笑顔を見たとたん、コン吉の胸はキュッ!と痛んだよ。

「おやさしいおやさしいコンコン様!昨日は本当にどうもありがとうございました。おかげさまでお母ちゃんも、久しぶりにお腹いっぱい食べられました。
お母ちゃんがこう言いました。
《このあんころ餅には、コンコン様の偉大なお力がこめられているみたいだよ》って。 そして少しふとんから起きあがって、こうも言ったのです。
《だってお母ちゃんね、これを食べたら体がフワリと軽くなって、少し元気が出てきたみたいなんだよ。なんだか、空気がおいしいねぇー》
 わたしの大切なお母ちゃんに、コンコン様の不思議なお力をお示しくださって、本当に本当に、ありがとうございます」
はずんだ声で一気にここまで話すと、何度も何度も祭壇に向かっておじぎをして・・・・それから再び、山をかけ下りていったよ。幸せいっぱいの笑顔でね。でもさ、その娘がお礼を言うたびに、コン吉の胸はキュウキュウと締め付けられるように苦しくなったんだ。

その娘の姿が見えなくなると、コン吉はしみじみとこう思ったよ。
(昨日はお腹がすごく空いていたのに、心の中はほんわかと暖かくって、歌でもうたいたい気分だったなぁ!それに比べて今日はお腹がはちきれそうなくらい満腹で、このコン吉様としちゃあ最高の気分のはずなのにさ、どうも、おかしいんだ。むしろ逆に、ズキンズキンと心が痛むのは、いったいどうしたわけだろう?なんだか心の中を冷たい北風が吹き抜けている感じだよ)

コン吉はその夜、草の上に寝ころがってお月様をながめながら、あの娘のことばかり考えていたよ。
(お月様、お月様!おいらってどうして、こんなに食いしんぼうなんだろう?
明日こそ、あの子にお供え物をたくさん、食べさせてやりたいなぁー!
あっ、そうだ!明日は、朝起きたらすぐに、草の実や花をお腹いっぱい食べるんだ。そうすれば、あのばあさまの持ってきてくれるお供え物を、きっと食べずに我慢できるよね。ねぇーお月様、いい考えだろう?)

その次の朝、コン吉は、あの娘の喜ぶ姿を思い描きながら・・・・せっせと野の花や草の実をお腹に詰め込んだんだよ。Picture25blog
ところが・・・・どうしたというのだろうね?いつもの時間が過ぎても、あのばあさまが現れないんだよ。コン吉は、お堂の裏側を行ったり来たりウロウロしているばかり・・・・。そうこうしているうちにお昼も過ぎて、またあの娘がやってきたんだ。今日もかわいい笑顔がこぼれていたよ。

「コンコン様!おかげ様で、お母ちゃんは少しずつ元気になっています。これもすべて、コンコン様のお力のおかげです。本当にありがとうございます」

するとコン吉は、うーんと低い声で、偉そうに言ったのさ。
「そうか、それはよかったぞ!ところで、良いことを教えて進ぜよう。ここからの帰り道に大きな岩があるが、その右手の方にピンクの野の花がたくさん咲いている。その花は、とても甘い蜜を持っていて、そのままで食べられるのだ。その花をたくさん摘んでいって、母ちゃんに食べさせなさい。そして残りは、煮詰めてカメに入れて保存しておきなさい。オッホン・・・コンコンコン・・・
「まあーコンコン様!ありがとうございます!早速、そうします。」
その子は、また何度もおじぎをすると、急いで山をかけ下りて行ったよ。

やがて・・・・・お日様が沈み、空が濃いスミレ色に変わりはじめたよ。
さて、コン吉は、あのばあさまことを考えると、急になんだか胸騒ぎがし始めたんだ。

「ねえ、お月様!あのばあさま、ひょっとしたら病気になったんじゃないだろうか?だってさ、今日ここに来ないなんて、絶対におかしいよ」
そう考え始めると矢も楯もたまらず、コン吉は夜の山道を、ヒョイヒョイとかけだしたんだ。

「えーと、あのばあさまの家は、いったいどこだろう?」
そこで、そのあたりで一番高い木の、てっぺん近くまでよじ登ったのさ。
ポツンポツンと村の明かりが見えたよ。コン吉はとても目が良くて、暗闇でも物がよく見えるんだ。それで、村の中で一軒だけ明かりのついていない家を、すぐにみつけ出したよ。
「あの家かもしれないぞ。だって、まだ寝るには早すぎる時間だしね」
コン吉は、大急ぎで木からすべりおりると、その家めざしてかけにかけたよ。

やっと、その家に着くと、戸をそっと開けて中をのぞいてみたんだ。すると土間に、あのばあさまが倒れているのが見えたのさ。どうやら気を失っているようだった。
「うわぁ、大変だぁ!どうしよう?」
コン吉は、ばあさまの脇をかかえて、ヨイショ、ヨイショと必死で部屋の中にひっぱりあげて、それから急いで押入から布団を引っ張り出すと、そこに寝かせてあげたのさ。
ばあさまは死んだみたいに、じっと横たわったままだったよ。このまま放って置くわけにもいかないし・・・・・。その時、コン吉は、ハッと思い出したのさ。
「そうだ!あの子だったら、いつも病気の母ちゃんを看病しているから、こんな時どうしたらよいか、よく知っているはずだよ」

そこで、コン吉は村人の家を一軒一軒のぞいて歩いたのさ。一軒ずつといっても、村の中でとりわけ貧しそうなボロ家ばかりを選んでのことだから、わりと簡単に見つかったよ。5軒目の壊れかかった戸のすきまから、コン吉はあの娘の明るい笑顔を見ることができたんだ。
コン吉は小さな石を拾うと、家から少し離れた草むらに隠れてから、戸にむかってほおり投げたんだ。カチン!という音を聞きつけて、あの娘が不審そうな顔をして、戸を開けて外に出て来たんだよ。
その時さ!コン吉は、いっしょうけんめいに低いえらそうな声を出したんだ。
「我は、コンコン様であるぞ!さて、折り入ってお前に頼みたいことがあるぞ。
じつは、村はずれの泉の近くに住む一人暮らしのばあさまが、病気で倒れている。すぐに行って、看病をしてやってくれないか?コンコンコン・・・
重々しい声が、夕闇に響きわたったのさ。

娘はびっくりして、腰を抜かさんばかりだったよ。でも、すぐさま家の中に入って、母親に何か言ってから、薬箱を手にすると、おおあわてであのばあさまの家に向かったんだ。コン吉は、ばあさまのことがとても気になったので、その娘の後をそっとついて行ったよ。

(あの娘、名前をサヨっていうんだな。家の中からあの子の母ちゃんが、そう呼びかけていたな。サヨって、かわいい名前だな!)

小夜(サヨ)は、ばあ様の家に着くと、まず気付け薬をかがせたよ。それから、やさしく体をさすってあげて、「おばあさん!おばあさん!」と声をかけたんだ。
やがて、ばあさまは目をさましたよ。
「まぁ、わたし、どうかしたのかねぇ?気分が悪くなって、フラッとしたところまでは覚えているのだけれども・・・・。
娘さん!あなたがこのばあさんを、ここに寝かせて下さったのかい?」
「いいえ、私じゃありません。 あっ!じゃあ、きっとコンコン様にちがいないわ。私の所に、おばあちゃんが倒れたので、すぐに看病に行ってあげてほしい!と言いに来て下さったのが、コンコン様だったのよ」
「ああ、そうだったのかい、そうだったのかい。コンコン様って、本当にやさしくって思いやりのある方だねぇ。元気になったら、またたくさんのあんころ餅を作って、お供えしましょうね」
「まあ、もしかしたら、私があのコンコン様から頂いたあんころ餅は、おばあちゃんが作って下さったものなの?」

そこで、小夜は、あんころ餅のいきさつについて、話し始めたんだよ。
それを聞いたばあ様の目には、みるみるうちに涙があふれはじめたんだ。
「それはそれは本当に良かったこと!小夜さんの母さんも少し元気になったなんてね。それにしても、コンコン様の思いやりの深いことといったらないねぇ」
「ところで、おばあさん!何かおかゆみたいなものでも作りましょうか?」
「そうかい?うれしいわねぇ。じゃあ、ついでに小夜さんとお母さんの分も一緒に、3人分作って下さいな。お米はね、タップリと食べきれないほどありますからね」

小夜は、その晩遅く、アツアツのおかゆの入ったお鍋と、たくさんの野菜とを腕一杯に抱えて、幸せな気分で家路に着いたよ。
ところで、こっそりのぞき見をしていたコン吉は、小夜が湯気の立っているおかゆをばあさまに食べさせている間も、そのおいしそうな匂いに、お腹がグゥーとなりそうなのを必死でこらえていたんだ。

コン吉はいつもなら、お腹がすいているとひどーく不機嫌になるのだけれども、今晩は違ったよ。食べ物の代わりに、何かもっと別のふんわりと暖かいものが、お腹いっぱいにみちあふれていたのさ。
空腹なのに、ニコニコしていたんだよ。
コンコン神社への帰り道、コン吉は手あたり次第に道ばたの草をちぎっては、ムニャムニャかじりながら、夢見心地で歩いていたのさ。
それでね、何度も木の幹にコツンコツンと頭をぶつけてしまったよ。
「痛いや!大きなこぶができちゃったよ」
なんて言いながら、でもコン吉はニコニコ笑っていたんだ。Picture28blog

それからしばらくの間、ばあさまがすっかり元気になるまで、小夜は毎日、ばあさまの家へ通って、身のまわりの面倒を見てあげたんだ。そして、夕方になると、プーンといい匂いをさせた雑炊のお鍋を抱えて、幸せ一杯でお母ちゃんの待つわが家へ、いそいそ帰ったんだよ。
ばあさまが良くなるのと一緒に、小夜のお母ちゃんもメキメキ病気が回復し始めたよ。毎日、栄養タップリの食事を、口にすることができるようになったせいだね。

コン吉も、毎日のように、おばあさんの家にこっそりやってきては、窓から家の中の様子を、そっとながめていたんだよ。
(あの娘、なんてかわいらしく笑うんだろう。そして、なんてやさしくばあさまに話しかけることだろう)
コン吉は、知らず知らずうっとりとした表情をして、小夜をみつめていたんだよ。

それからしばらくして・・・・コン吉は、だんだん奇妙な感じに気づき始めたんだ。
「お月様!おいら、病気なんじゃないだろうか。胸のあたりがね、ときどきジーンと熱くなったり、妙にかきむしられるよう奇妙な感じがあるんだ。
それにね、急に食欲もなくなってしまったんだ。この食いしんぼうのコン吉様がだよ。
ねぇ、お月様!おいら、もしかしてもう命が長くないんじゃないだろうか?」
コン吉は、夜になると、お月様にこう話しかけていたんだよ。

実はね、コン吉の場合は恋わずらいという、若者がよくかかる病気だったんだけどね、コン吉自身は気づいていなかったんだ。
コン吉はだんだんやせてきて・・・・お堂で村人のグチを聞いてあげるだけで、せいいっぱいで、もう山を下りてばあさまの所へ行く元気もなくなり始めたよ。
今ではコン吉が、お供え物の大部分を、お参りにやってくる貧しい村人に恵んであげるものだから、コンコン様の評判はますます高くなったよ。
遠くの村からも、いろいろな人がお参りにやってくるようになっていたしね。
その頃にはすっかりやせこけてしまったコン吉は、「信心さえしていれば、必ずしや願いはかなうであろう!」と、ただ一言、小さな声で、静かに話しかけるだけだったんだ。 

それからまた、数週間が過ぎたよ。
あるさわやかな朝、骨と皮ばかりになったコン吉が、神棚の後ろでうつらうつらとしていた時のことだった・・・・。聞き覚えのある軽い足音と、もう一つ力強い足音とがし
て、2人の若者がお堂にやってきたんだ。
コン吉はあわてて、起きあがって目をパチパチさせた。
急に胸がどきどきし始めたよ。
そうなんだ!一人はあの小夜だったんだ。ただもう一人は、見かけたことのない青年だった。小夜は、瞳をキラキラ輝かせながら、話し始めたよ。

「コンコン様!今日は、心からのお礼を申し上げにやってきました。あのおばあさんは、すっかりお元気になって、今では畑仕事もできるようになっています。おばあさんから、あんころ餅を預かってきました。どうぞ召し上がって下さい!
 お母ちゃんも、今では起きあがって家の近くを散歩できるまでに、病気が良くなっています。これもすべて、心やさしいコンコン様のおかげです」
それを聞いて、コン吉はうれしくて、心がはりさけそうになったんだ。
「それはそれは、良かった!コンコンコン

「ところで、コンコン様!私、とっても大事なご報告があります。
じつは、いま私の隣にいる人は、あのおばあさんの甥っ子です。おばあさんが病気の間、となり村から畑仕事を手伝いに来てくれていたのです。とてもやさしい人です。あのぅ、私、この人のお嫁さんになることになりました。
この人は、この村に住んで、おばあさんの畑で働くことになりました。
これもすべて、コンコン様のおかげです。
本当にいろいろありがとうございました・・・・・」
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コン吉は、もう、最後の言葉は聞き取れなかったよ。
お嫁さんという言葉を聞いたとたん、心臓にビリリ、ドカンと雷が打たれたようだったのさ。 もはや、何にも考えられず、せいいっぱい頑張って・・・
「それは良かったな!こんこんこん・・・・
とだけ言うと、後は気を失って倒れてしまったよ。

その夜、お月様はいつもに増して、やわらかな光を出して、コン吉のまわりをつつんでくださった・・・のさ。そしてコン吉はその時はじめて、自分が小夜を死ぬほど好きだったことに気がついたんだ。Picture29blog
コン吉はお月様に見守られながら・・・・涙が涸れるまで泣き続けたよ。

さて、朝がやってきた時、コン吉はどうなったのかって?
泣きつかれて眠ってしまったコン吉だったけれどね・・・・ググゥーググゥーとお腹がわめきたてる音に、目覚めたんだ。
(ああ、お腹が空いちゃったよ!もう、何日も食べていない気がするなぁー。
何か食べる物は?おっ!昨日小夜が、タップリとあんこのつまった草餅を、持ってきてくれたのが、供えてあるぞ。おまけにその横には、熟した果物が山盛りになっているし・・・・・)
と言うやいなや、コン吉は草餅そして果物と、次々に平らげてしまったんだ。
(あー、お腹が一杯になったら、何だかまた眠くてしまったよ。
 ムニャムニャ・・・・・)

おやおや、なんてことだろうね。満服になったコン吉は、そのままだらしなく眠りこけてしまったよ。
「なあんだ、コン吉ってずいぶんと変わり身の早いやつだ。小夜のことだって、たいして好きなわけじゃなかったのかもしれないね。」
なんて言わないでほしいな。
コン吉は本当はね、とっても深く傷ついていたんだよ。でも思いきり泣きに泣いて、コン吉はこう思ったんだ。
(おいら、キツネだし、人間の娘の小夜をお嫁さんにできるわけもないしね。
それに比べて、あの若者はまずは人間だし、気立ても良さそうだし、小夜をとても好いているようだし・・・・・。おいらは、えらーいコンコン様なんだから、自分の幸せは二の次にして、村人たちみんなの幸せを考えてあげなくちゃいけないんだ。
そうだよ!おいらには、父ちゃん、じいちゃん、ひいじいちゃんと引き継いできた大切な仕事があったんだ。それを忘れちゃいけなかったよ。
さあー!明日からは、新しい気持ちで頑張らなくちゃー!それにはこんなやせっぽちじゃダメだ。もっとたくさん食べて、体力をつけよう)

コン吉の心の中には、こんな気持ちがしっかりと芽生え始めていたんだね。
コン吉のことすっかり、見直しちゃったよ!
きっと・・・・眠りから覚めたら、コン吉は今まで以上にコンコン様らしく、人々の悩みを聞いてあげられるに違いないね。
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                         <おしまい>

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