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2007年11月13日 (火)

<童話>赤いベレー帽

Picture35blog 日が落ちて、ヒグマの母さんが帰ってみると、おやまあ、驚いたことに、巣にしている木の洞の中で、ヒグマの坊やによりそうようにして人間の女の子が眠っていたよ。
 
 グゥグゥ グゥー
 スゥスゥ スゥ

赤地に黒い水玉模様のジャンパースカートに、大きなレースの衿のついた白いブラウスと白いソックス。ベレー帽と靴は、あざやかな赤色のお揃い。
その女の子のあまりのかわいらしさに、ヒグマの母さん、声もなく、しばらくじっとみつめていたよ・・・。

 さて、ヒグマの母さん考えた。
(この女の子は、いったいどこからやってきたの?私たちのすむこの森は、四方を断崖絶壁で囲まれた谷底にあって、けっして人間の近づけない場所のはずよ。こんな小さな女の子がどうしてここに?)
そのうちに、一匹と一人は目を覚まし・・・

「あっ、おかあちゃん!ぼくお腹がへっちゃったよ」
「あたしもそうよ、とってもお腹がすいちゃったわ!
 だって、朝からなぁーんにも食べていないんですもの。
 あらっ?とってもいいにおい!あまーい果実の香りがするわ」
「ほら、お食べ!大食漢の坊やのために、たくさんもいできたからね」

 ヒグマの母さん、大きな葉っぱに果実を山盛りにしたのを、地面にドサリ。
 坊やも女の子も、お腹が一杯になると、ふたたびよりそってグゥグゥ スゥスゥ・・と、そのまま朝まで深い眠りにおちてしまったよ。
 
 おっはようー     ピピピピ ピー
 おっはようー     ピピピピ ピー
 お日様が昇り、小鳥達が朝のあいさつにやってくるよ。
 大きな木は、いろいろな動物達のアパート。
 木の根元の大きな洞は、ヒグマ親子のすまい。真中の小さな穴はキツツキ親子のすまい。梢の方は、小鳥たちのすまい・・・となっているよ。Picture36blog

朝ご飯を食べてから、ヒグマの母さん、女の子をひざにのっけてたずねたよ。
「ねえ、あなたはいったいどうやって、ここに来たの?ここは谷底一面が緑の深い森だから、人間は絶対に来られないはずよ」
にっこり、えくぼをつくって、女の子はこたえたの。
「あたし、今は仮に人間の姿をしているけれども、本当は人間じゃないのよ。だから、どこへでも好きな所に行けるの。あたし人間がだぁい好き!あたしね、人間の心の中に棲む子どもの心なのよ・・・ あたしね、今までユリさんという女の人の心の中に棲んでいたのよ。でも・・・ユリさんは、もうあたしのこと必要ないんだって。ついこの間までは、あたしのこと、大好きって言ってくれていたのに」
女の子はそう話すと、しょんぼりしてうつむいてしまったよ。

ヒグマの母さん、女の子をやさしくしっかり抱きしめて、聞いてみた。
「どうして、ユリさんはあなたが必要なくなったのかしらねぇ?」

女の子は、大きくため息をつくと、
「あのね、それはあの男の人のせいなのよ。ユリさんね、もうすぐその人と結婚するんですって。その男の人、あたしのこときらいなの。ユリさんとあたしが仲良くするのが気に入らないんですって。
結婚したら、これからは妻として母として生きるのだから、もう、そんな少女っぽいメルヘンの世界で遊ぶのはおよしよって、その男の人は言ったの。だからユリさんは、今までに書きためた詩集も童話集もぜんぶ、捨ててしまったのよ。でもその時のユリさん、とってもかなしそうだったわ」

ヒグマの母さん、すっかり考えこんでしまったよ。
「ふーん、人間の世界では結婚するって、夢みる少女の世界を捨てなくちゃいけないのかねぇー」
「ううん、みんながみんなそうじゃないわ。時にはあたしたち、ずっと一人の人の心に棲み続けられることもあるのよ。その人が一生を終えるまでずっとよ。でもねそんな人って、まわりからはすこーし変人あつかいされることもあるのよ」
「ふーん」
 と、ヒグマの母さん、またまた考えこんでしまった。
「でもねぇ、あたし、だいじょうぶよ。きっとまた、すぐに誰かとお友達になれると思うの・・・」女の子は、自分に言い聞かせるように、そうきっぱりといったよ。

 ヒグマの母さん、女の子をふたたびしっかり抱きしめて、ほおずりすると静かに話しかけたよ。
「かわいそうにね・・・。いいよ、好きなだけここにいなさい。うちの坊やも、遊び相手がいなくって、とてもさびしがっているから、二人ですきなだけ遊び回りなさいよ。この母さんは、毎日、二人のためにおいしい果実をさがし集めるからね」

ヒグマの坊やと女の子は、仲良しこよし。
毎日、一緒に遊んだり、お腹がパンクしそうなくらい果実を食べたりして・・・遊び疲れたら、よりそってウトウト・・・。
ヒグマの母さん大いそがし。毎日おいしい果実をさがしに、あっちの丘、こっちの谷間と、歩き回っているよ。でもなんだか楽しそう・・・

ある日のこと。ヒグマの母さんが、よいこらしょと、大きな葉っぱに山ほどの果実をのっけて、洞にもどってみると・・・あれあれ?
坊やがひとりぽっちで、コックリコックリ・・・。あの女の子の姿はどこにも見当たらないよ。真っ赤なベレー帽が、ぽつんと残っているだけ。
「ねぇ、坊や、ちょっと起きておくれ!あの子は、どこへ散歩におでかけ?」

目を覚ました坊やは、目をパチクリしてあたりを見まわしたよ。
「あれっ?おかしいな?さっきまでぼくと一緒に、遊んでいて・・・それから、ここで二人ともいねむりをはじめて・・・それじゃあ、あれは夢じゃなかったのかなぁ?」
「まぁ、坊や!どうかしたの?」

さて坊やは、眠い目をこすりこすり、話し始めたよ.
「さっきね、とっても不思議な夢を見ていたんだよ。その夢の中で、あの子と二人、大空を自由に飛びまわっていたんだ・・・。
はじめは、二人で原っぱにすわって歌をうたっていたんだけど・・・そのうち、あの子ったら急に立ち上がって、とっても幸せそうにスカートをヒラヒラさせはじめて・・・やがていつのまにかチョウチョのように、空中を舞い踊りはじめたんだ。
僕はあっけにとられて目を丸くしていたよ。そんな僕の手をあの子が握ったらんだ。そうしたらね、驚いたことに僕まで空中に浮かんでしまったんだよ。
二人で森の木のてっぺんよりもずっと高い空の上にのぼって、あちらこちらと飛びまわったんだよ。
とってもすてきな気分だったなぁ!Picture37blog

しまいに、またこの木の下に降りてきて、あの子はそっとつぶやいたんだ。『さようなら・・・』ってね。
『えっ、どうして?』って僕がきいたら、こう答えたんだよ。
『あのね、あたしの棲む新しいお家がみつかったのよ。
あのユリさんが、かわいい女の子を産んだの。だからね、あたし、その子の心の中に棲むことに決めたの。ユリさんのそばにいつもいられるなんて、あたし、とっても幸せ・・・。
でも、あなたと別れるのは、ちょっとつらいわ。せっかくお友達になれたのにね! あたしの大切なベレー帽を、あなたにプレゼントしていくわ。じゃあ、さようなら・・・』

そしてあの子は、またフワフワ・・・と高い空にのぼっていったんだ。ぼくはね、それを夢だとばかり思っていたんだ。でも・・・あれは本当のことだったみたいだね。だってここに、ちゃんとあの子の真っ赤なベレー帽が残っているもの。
ねぇ、母さん、僕さびしいよ。あんなに仲良しだったのに!せっかく、すてきな遊び相手が見つかったと思っていたのにね」

ヒグマの母さん、坊やを強く抱きしめると、ほほえみを浮かべてこう話しかけたよ。
「ねぇ坊や、あと半年ほどお待ちよ。そうしたら、お前にかわいい弟か妹が、できるはずよ」

その晩、ヒグマの母さんと坊やは、よりそうようにして静かな眠りについたよ。二匹のそばには、あの真っ赤なベレー帽がそっとおかれていたよ。
きっと二人とも、あの女の子の夢を見ているにちがいないね・・・Picture38blog                          
                                  
                            <おしまい>

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