カテゴリー「創作童話(1)」の記事

2008年3月13日 (木)

<童話>ネズミの紳士の訪問

夕日 作   
 
 
ケンちゃんは、6才になったばかりの男の子。ケンちゃんは、バイオリンのおけいこが大きらいです。

  ギギィー ギー ギギギギ ギィ
(わっ、なんてひどい音なの!)
 
ギギィー ギー ギィギィ ギギギギ

  これは、ケンちゃんのひいているバイオリンの音なのです。毎日、同じ時刻になると、ケンちゃんは柱時計とにらめっこで・・・めちゃくちゃに弓を動かすのです。「あーあー、早くあの長い針が、6のところへいってくれないかなぁー」

  ケンちゃんは、毎日きまって30分間、バイオリンのおけいこをしなくてはいけないのです。バイオリンのおけいこを大急ぎですませると、ケンちゃんはすぐに、お外へとびだします。
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ケンちゃんは、海が大好き。ケンちゃんは海のある町に、おじいちゃまとおばあちゃまと三人で住んでいます。お家を出てすこし行くと、もう海です。でも砂浜はなくて、さまざまの形の大小の岩があるばかりで、泳ぐことはできません。ケンちゃんはお気に入りの小さな岩に腰かけて、じっと海を見ているのが好きです。
 
ケンちゃんはときどき、海に話しかけます。すると海は、ザンブザンブ・・・と大きな波しぶきをたてて、楽しそうに笑ってくれます。ケンちゃんがさびしそうな顔をしている時には、ゆったりとした子守歌をうたって、なぐさめてくれることもあります。ケンちゃんが、なぜ海を好きかって?それは、この海がパパやママのいる遠い国へとつながっているからです。ケンちゃんの両親は音楽家です。一年中いろいろな国で演奏会を開きながら、旅行しているのです。だからケンちゃんは赤ちゃんの時から、おじいちゃまとおばあちゃまの家に預けられて、パパやママとは離れて暮らしているのです。
 
 ときどき外国から一時帰国をしたパパとママが、ケンちゃんに会いにきてくれます。そんな時でも帰国コンサートがあったりして、パパやママはいろいろと急がしくって、ケンちゃんと過ごせる楽しい時間は少ないのです。ママはいつも流行のドレスを着て、しゃれたつばのある帽子をかぶって会いに来てくれます。まるでフランス人形みたいにきれいです。
 ママは、ケンちゃんに会うと、きまってこう聞きます。「ママのいない間、ケンちゃんは良い子だったかしら?バイオリンは上手になったことかしら?」
 ケンちゃんは少し困って、でも小さくコクンとうなずきます。だってね、本当のことを言って、ママをがっかりさせたくはないもの。
 ママはいつも、外国の珍しいおみやげをいっぱい持ってきてくれます。「わぁー!すごいなぁ、ぼくね、こんなおもちゃをはじめて見たよ。パパとママ、どうもありがとう!ぼくって、世界一幸せな子どもだね」ケンちゃんは、とびきりの笑顔でそう言います。うれしくってたまらないというふうにね。でも、でもね・・・ケンちゃんが指折り数えて、パパとママの帰りを待っているのは、本当はそんな立派なおみやげのためではないのです。
(おみやげなんて、なぁーんにもいらない!それよりも、ママがぼくをやさしく抱きしめてくれて、ほおずりしてくれるほうが、ずっとずっとうれしいのに。そしてパパのすばらしいバイオリンの演奏をきかせてもらうより、ぼくはパパに肩車をしてもらって、あちらこちらとお散歩をしてみたいのに)ケンちゃんは、いつもそう思っています。
 
 ケンちゃんのパパもママも、少しおすまし屋さんすぎるのです。三人でうーんとおしゃれをしては、都会のレストランへお食事をしに車ででかけます。でも本当のことを言うとケンちゃんは、そんな豪華なお食事をするよりも、大きなバスケットにおにぎりやおやつをいっぱい詰めて、ジーンズとTシャツ姿で、近くの野山にピクニックに出かけてみたいのです。ケンちゃんはパパとママと三人でいる時、いつも何だか悲しい気持ちになります。パパやママに久しぶりで会えて、とっても幸せなはずなのに、どうしてなのかなぁ?ケンちゃんに自身にもよくわかりません。いつしかケンちゃんは、大人になってもパパやママのような音楽家にはなりたくないな、と思いはじめました。(だってね、また僕みたいなさびしい子どもができたら、かわいそうだもの)だからケンちゃんは、だんだんとバイオリンのおけいこが嫌いになってしまったのです。Picture71blog

 
 
 
ギギィー ギー ギギギギ ギィ

 ふくれっつらをして、ケンちゃんは今日もバイオリンのおけいこの真っ最中です。

  ギギィー ギー ギィギィ ギギギギ

  今日は朝から雨ふりです。ケンちゃんはバイオリンをひくのをやめて、窓に顔をくっつけてみました。窓の外は、灰色の重苦しい雲に一面おおわれた空です。シトシト シトシト・・・雨の音が悲しそうに、歌っています。と、その時でした!コツコツ コツコツ・・・誰かが、ケンちゃんのお部屋をノックする音です。小さな小さな音です。ケンちゃんは、大きな声で言いました。「だあれ?おばあちゃまなの?どうぞ!」でも、なんだか変なのです。だあれもドアを開けないのです。ケンちゃんは、またふくれっつらをして、バイオリンのおけいこを始めました。

コンコン コンコンコン・・さっきより、はっきりした音。ケンちゃんは、ドアの所にかけていきました。そして、ドアを開けてみました。おやおや?やっぱり、へんです。だあれもいないのです!いえいえ、じつはそこにはちゃんと、小さなお客様がいたのです。すてきなシルクハットをかぶり、モーニングを着こんだ、おひげの立派なネズミの紳士。

ぼっちゃん!はじめてお目にかかります」
 
 
ネズミの紳士は帽子を手にとると、ふかぶかとおじぎをしました。

「私は、あなたのお部屋のちょうど真上の、屋根裏部屋に住んでいるネズミです。じつは、ぼっちゃんに心からのお願いがありまして、勇気を出してここにまいりました。私には、ぼっちゃんと同じくらいの年の息子がいます。その子が風邪をこじらせてしまって、高熱が続きずっと寝込んでいるのです。そこで、言いにくいのですが・・・ぼっちゃんのバイオリンの音が、そのぅ、つまり、あのぅ、あんまりお上手とは言えないものですから、そのぅ、病気の息子にはですねぇ、ちょっとばかしうるさすぎるものでして・・・」ネズミの紳士は、汗をふきふきやっとそう言い終えると、もう一度ふかぶかとおじぎをしました。
  ケンちゃんは、すっかりびっくりしてしまいました。といってもそれは、ネズミが人間と同じように洋服を着たり話をすることができるせいではありません。そんなことにではなく、ケンちゃんのひくバイオリンの音が、重い病気のお友だちの迷惑になっていたことに驚いたのです。
「ごめんなさい!でも・・・ぼく、困ったなぁー。だってね、ぼくのパパもママも音楽家なので、ぼくにバイオリンのおけいこをやめさせるはずがないもの。ぼく、バイオリンなんて、本当はちっともひきたくないのにねぇ」

  ケンちゃんは、病気のお友だちを思って、ポロポロなみだをこぼしました。するとネズミの紳士は、少しあわてたようにいいました。
「そのぅ、私の息子は、音楽はちっとも嫌いではないのです。いえいえ、むしろ大好きと言えるほどです。息子も小さなピアノを持っていて、元気な時にはよく弾いているのですよ。そのぅ、ぼっちゃんがですねぇ、ほんのちょっとだけ、やさしく歌うようにバイオリンをひいてくだされば、よろしいのですが・・・。なにしろ、いつもはですね、まるでバイオリンの弓と弦が大げんかをしているようなものでして・・・」こう言いおえると、ネズミの紳士は、またふかぶかとおじぎをしました。それから帽子をかぶりなおすと、帰って行きました。
  ケンちゃんはその次の日からは、ネズミのお友だちにきかせるつもりで、心をこめてやさしく弓で弦をこすりました。

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それから、なん日かが過ぎました。ケンちゃんが、いつものようにバイオリンのおけいこをしていると、 コツン コツン  コツコツコツ・・・と、小さな音が聞 こえました。
 
ケンちゃんは、この日をずっと待っていたのです。大急ぎでバイオリンをケースに置くと、ドアの所にかけていきました。それから、そっとドアをあけました。やっぱり、思った通りでした。あの時のおひげの立派なネズミの紳士に並んで、ネズミの男の子が、ニコニコしながら立っていたのです。「どうぞ、お入りくださいな」ケンちゃんは、自分でもびっくりするほど丁寧にこう言いました。それから、お部屋のじゅうたんの上に寝そべって、ネズミの親子の顔がよく見えるようにしました。それから、ネズミの男の子にこう聞きました。「ねぇ、君!病気の方はもういいの?」
 
 
ネズミの男の子は、ちょっぴり恥ずかしそうに、コクリとうなずきました。それから小さな声で、言いました。「このごろ、君のバイオリンの音、とってもやさしいね。あのねぇ、君ね、ぼくの家に遊びに来てくれないかなあー。ぼくのピアノと君のバイオリンとで、二重奏をしたいんだけど」それを聞いて、ケンちゃんは飛び上がりたいほどうれしくなりました。でもすぐに、がっかりした顔になって言いました。
「だめだよ。だってね、ぼく、こんなに大きいでしょう?とてもとても君の家には入りきれないよ]
 
すると、おひげの紳士が笑顔でいいました。

「それは、大丈夫ですよ。というのも、ぼっちゃんはご存じないようですが、小さな子供というのは実に不思議な力を持っているものなのです。つまりですね、心から強く願いさえすればどんなものにでも変身できる力です」
「えっ、ほんとう?じゃあ、ぼく、小人になれるの?でも、どうしたらいいの?」ケンちゃんは、わくわくしながら聞きました。
「それには、呪文を唱えさえすればいいのです。たとえば小さくなりたい時には、大きくなりたいと言うのです。ただし一番かんじんなことは、それを下から逆に言わなくてはいけないことです。つまりですね、小さくなりたい時には“イタリナ クキオオ”と、いうふうにね」と、ネズミの紳士は言いました。

ネズミの紳士に案内されて、ケンちゃんは、廊下の先にある階段を上って屋根裏部屋に上がりました。もちろん忘れずにバイオリンケースも持ちました。広い屋根裏部屋には、古いタンスと木の箱がいくつか置いてあるだけでした。ここに上がったのは初めてのことでした。上に着くとケンちゃんは目をつぶってから“イタリナ クキオオ”と大きな声で言いました。それから、おそるおそる目をあけてみると・・・まあ、なんて不思議なことでしょう?いつのまにか、ケンちゃんの背たけは、ネズミの男の子と同じになっていました。手に持っていたバイオリンケースも、小さくなっていました。そして、さっきまでなぁーんにもなかったはずの場所に、赤い屋根に白い壁のネズミの家があるのが見えたのです。

 
ネズミの家は、床がちょうどケンちゃんの部屋の天井になっていました。お母さんネズミと妹ネズミが、ドアの前でケンちゃんを出迎えてくれました。フルーツケーキが、焼き上がったところですよ」お母さんネズミが、ケンちゃんをやさしくみつめて言いました。ネズミの一家とケンちゃんとの、それはそれは楽しいお茶の時間が始まりました。手作りのケーキは、生クリームがたっぷりかかっていて、ほっぺたがとろけそうなおいしさでした。ケンちゃんは、ママの手作りのケーキなんて、まだ一度も食べたことがないのです。ケンちゃんのママはピアニストなので、指を切るといけないからといって、お料理はいっさい作ったことがありません。

  おなかがいっぱいになって、ケンちゃんはネズミの男の子のお部屋へ行きました。そこには、真っ赤なピアノがありました。ネズミの男の子はケンちゃんに、にっこり笑いかけるとピアノの前にすわりました。
「ぼくね、下から聞こえてくる君のバイオリンにあわせては、いつもこのピアノを弾いていたんだよ。」
  どおりで、一度も合わせて練習したことのないはずの二重奏が、とても美しく響き合いました。一人じゃなくお友だちと心を合わせて音楽を楽しむって、なんてすてきなことなのでしょう!

  パチパチパチ パチパチパチ・・・いつのまにかネズミのお父さんお母さんとかわいい妹が、聴きにきてくれていたのです。ケンちゃんは、ちょっぴり照れてしまいました。でも、とってもうれしかったのです。「今日は、どうもありがとう!こんなに楽しかったのは、はじめてだよ」

  ケンちゃんは、ネズミの一家にさようならを言って、ネズミの家を出ました。それから目をとじると・・・呪文を唱えました。今度は大きくなりたいのです。“イタリナ クサイチ”ケンちゃんは、大きく息を吸うと、そおっと目をあけてみました。ちゃんと元の大きさに戻っていました。もちろんバイオリンもです。そして不思議なことには、さっきまであったはずのネズミの家が、もうどこにも見あたらないのです。

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  それからというもの、ケンちゃんはバイオリンのおけいこが楽しくってたまりません。あの子がぼくの音に合わせて、一緒にピアノを弾いているかもしれない・・・って思うだけで、ケンちゃんはうれしくなってしまいます。だから、しぜんにおけいこの時間も長くなりました。ケンちゃんは、めきめき上達しました。
  そんなふうにしてケンちゃんは、バイオリンを持って、ときどき屋根裏部屋に行くようになりました。おじいちゃまおばあちゃまには、内緒です。大人にはどうせ呪文はきかないのですし・・・。
 
  ネズミのお母さんは、いつもおいしいケーキやパイを作って、ケンちゃんを歓迎してくれます。ケンちゃんとネズミの男の子は、すっかり仲良しになりました。二重奏を楽しむだけではなく、いろいろなおしゃべりもするようになりました。
「ねぇ、君の家族みたいに、いつも一緒にいられるっていいね」ある日、ケンちゃんがこう言いました。「君って、おかしなことをいうね。だってね、家族ってふつう、一緒に暮らすものだよ」ネズミの男の子は、首をかしげてこう言いました。
 
 それを聞いて、ケンちゃんはさびしそうにうつむいて、こう話しはじめました。「ぼくのパパとママは世界中のたくさんの人々に、音楽のすてきさを伝えるための大切なお仕事を持っているから、しかたがないんだ。だから、ぼくは家族そろって暮らせなくても、がまんしなくちゃならないの・・・。でも、ときどきは、さびしくって大声を出して爆発したくなることもあるんだよ!前に一度だけ大声で歌って、おじいちゃまに『うるさい!』って、ひどく叱られて土蔵に入れられたことがあるの。その時ぼくね、とってもひとりぼっちの気分だったの。おばあちゃまはね、田舎の子と遊ぶと乱暴になるからといって、ぼくを近所の子と遊ばせてはくれないの。そんなことちっともないのにね。
これまで友だちなんて一人もいなかったんだよ」話しながら、ケンちゃんの目にキラリとなみだが光りました。
 
 ネズミの男の子は、たずねるのでした。「ケンちゃんのおじいちゃまやおばあちゃまって、いっしょに遊んでくれないの?」

 ケンちゃんは、悲しそうに首を横にふりました。「うん、ちっともね。だってね、おばあちゃまはお茶とお花の先生だから、毎日お弟子さんを相手に、いろいろと忙しいの。おじいちゃまの方はね、いつも書斎で大切な書きものをしているの。おじいちゃまは学者なんだ。ぼくね、いつもひとりぼっちで忘れられているみたいだったのね。それで急に、廊下で大きな声で歌いたくなったの・・・。ぼくがここにいますって、誰かに教えてみたい気分だったのね。そうしたら、おじいちゃまが、こわーい顔をして書斎から飛び出してきたんだ。そしてぼくをグィと抱きあげたかと思うと、あっという間に土蔵に閉じこめてしまったの。土蔵ってね、じめじめしていて暗くって、今にもお化けが出そうでこわかったよ。ぼく、悲しくって中でずっと泣いていたんだよ・・・」
 
 ケンちゃんの話を聞いて、ネズミの男の子は、目にいっぱい涙をためていました。そして、ケンちゃんの手をしっかり握りしめました。友だちって、いいものだなあ・・・ケンちゃんは、しみじみそう思いました。ケンちゃんはもう、ひとりぼっちではありません!


 
それから、何ヵ月かが過ぎました。ネズミの男の子は、いつものようにケンちゃんがやってくるのを待っていました。ところが・・・今日はどうしたというのでしょうか?バイオリンを持たずにやってきたケンちゃんは、目が真っ赤です。
「ねぇー君!ぼくね、もう、ここに来られなくなってしまったの」ケンちゃんは、やっとそれだけ言うと、涙をポトポトこぼしました。
 ネズミの男の子は、驚いてたずねました。「どうして?ねぇ、どうして来られないの?」
「あのね、ぼくのパパが外国の音楽大学の教授になることになったので、ぼくも一緒に暮らすことになったんだ。だから、君とお別れしなくちゃならなくなったの・・・」

  その日の夕方、ケンちゃんとネズミの男の子は海へ行きました。真っ赤な夕日が、今にも海のかなたへ沈もうとしていました。ネズミの男の子が、今にも泣きだしそうな声で言いました。「お別れは、すごーく悲しいよ!でもね、ぼく君に会いたくてたまらなくなったら、ここに来るよ。だってこの海は、君の住む遠い国とつながっているんだろう?そう思うと、ぼく、さびしくなくなるよ。きっとね」

 夕闇が二人をやさしく包んでくれています。海は今日も、ゆったりゆったりと子守歌をうたってくれています。

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 ケンちゃんが外国で暮らすようになってから、何年もたちました。ケンちゃんには、たくさんのすてきな音楽仲間や友人ができました。でもケンちゃんは、あの一番大切なネズミのお友だちのことは、けっして忘れてはいませんでした。バイオリンをひくときはいつも、あのお友だちに聞かせているつもりで、心をこめて弓を動かします。

  やがて立派な青年になったケンちゃんは、今ではバイオリニストになっていて、ときどき演奏会も開きます。「ご両親が有名な音楽家だから、その才能を受け継いでいらっしゃるのね」そんな風に、人々はうわさをしています。でも、ケンちゃんはよく知っています。ケンちゃんが、心からバイオリンを好きになったのは、あのネズミのお友だちのおかげだということを・・・。今でもケンちゃんは、目をつぶってあの呪文を真剣に唱えてみることがあります。でも目を開けてみると、世界は何も変わっていません。
「しかたないや。これが大人になるということなんだなあ!」
そうつぶやくと、ケンちゃんは少しさびしそうにほほえみます。

 ケンちゃんは暇ができると、親のないさびしい子ども達がたくさん暮らしている施設を訪問します。そして、バイオリンを教えてあげたり、いっしょに遊んであげたりします。時には、美しい曲をひいてきかせてあげたりもします。そんな時ケンちゃんは、あのネズミのお友だちと一緒にいるような気持になります。

「ねぇー君!このかなしそうな目をした子ども達のために、ぼくは何をしてあげられるかしら?君が、ここにいてくれるといいのにね。そうだ!あの呪文のことを教えてあげようかな。小さな子供達が、ぼくにとっての君みたいなすてきな友達を持てるようにね。うん、そうしよう!」

  ケンちゃんは、ときどき休日の朝早くに公園で無料のミニコンサートをひらきます。お客様は、早起きの音楽好きの子ども達です。それと、いっしょうけんめいに歌のおけいこ中の小鳥達も・・・。

   《おしまい》

                  

                                    

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2007年12月24日 (月)

<童話>タンポポ国で見た夢

                        夕日 作

マーヤとユーくんは、どちらも5才になったばかりのかわいい女の子と男の子。
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マーヤは、ママとママ方のおじいちゃま、おばあちゃまと4人で一緒に暮らしています。パパはいません。パパは、マーヤがまだ赤ん坊の時に、ガンというこわーい病気のせいで、みんなより一足先に天国という虹色に輝く美しい国へ行ってしまったそうです。
赤ん坊のマーヤを抱っこしたパパとママの笑顔のすてきな写真を、ママは木彫りのすてきな額に入れて大切に飾っています。ママはお仕事があるので、日中はお家にいません。マーヤは幼稚園から帰ると、おばあちゃまと公園に遊びに行ったりして午後を過ごします。

ユーくんは、パパとパパ方のおじいちゃま、おばあちゃまと三人で一緒に暮らしています。ママはいません。ユーくんがかすかに覚えているママは、いつも哀しそうな顔をしていました。ある夜、ママは突然ユーくんを強く抱きしめて「さようなら!」といって、大粒の涙をこぼしたのです。そうしてそれっきり、ママはユーくんの前から姿を消してしまったのです。ユーくんのパパは、ママと赤ん坊のユーくんと3人で写した写真なんて飾ったりはしていません。そもそもママの写真は一枚もないのです。それどころか、ユーくんがちょっとでもママのことを聞こうとすると、パパは「うるさいぞ!」と、どなりさえするのでした。今ではユーくんには、パパとママが大げんかをして、永遠にさようならをしたことがわかります。ユーくんも、午後になるとおばあちゃまに連れられて、公園に散歩にでかけます。

ユーくんとマーヤは、いつも行く公園で、いつの間にか大の仲良しになりました。そして、おばあちゃま同士もとても親しくなって、マーヤたちが砂場やすべり台で遊んでいる間、楽しげにおしゃべりするようになりました。だから4人とも、毎日公園に出かけるのが、とっても楽しみになっていました。
ユーくんとマーヤは、初めのうち砂場遊びやブランコやすべり台なんかがおもしろかったのに、そのうちだんだんとあきてきました。

「ねぇ、マーヤ、あのきれいな花壇の方へ行ってみようよ」
「ええ、そうね。とってもきれいなお花が、いっぱい咲いているわ」
二人はニコッと顔を見合わせると、花壇の所までかけていきました。季節はちょうど春でしたから、赤、白、黄色のチューリップが一面に咲きそろっていました。
ユーくんが、また言いました。
「ねぇ、マーヤ、あっちに池があるよ。あそこまで行ってみようよ」
マーヤはおばあちゃまたちのことが、ちょっと気になりました。でも・・・二人はベンチに腰かけて、なにやらお話に夢中です。
「そうね、ちょっとだけなら・・・」
その池には、色あざやかなコイがたくさん泳いでいました。
こんな風にして二人は、はじめての小さな探検を楽しみましたが、おばあちゃまたちは全く気づいてはいませんでした。そして、その日からマーヤとユーくんは、広い公園をあちらこちらと少しずつ冒険に出かけるようになりました。もちろん、おばあちゃまたちには内緒です。

そんなある日のことです。二人はいつものようにこっそりと探検をしていて・・・公園の片隅に大きな太い木を見つけました。その木の根元近くに、ぽっかりと大きな穴があいています。小さな子どもなら、かんたんに入れそうな大きさです。
ユーくんが、いたずらっぽい目つきで言いました。
「ねぇ、ちょっと中に入ってみない?」
「そうね、ちょっとだけならいいわよねぇ」
と、マーヤも好奇心に瞳をかがやかせます。
二人は、おそるおそるその穴に入ってみました。中は思ったほど暗くはありませんでした。すぐ目の前に、草のツルで編んだ縄ばしごがたれ下がっていました。
「あれっ?こんな所に縄ばしごがあるよ」
「ねぇ、ユーくん!上の方が少し明るいわよ。ちょっとのぼってみない?」
「うん!ちょっとだけね。」
二人は、その縄ばしごをドンドンのぼっていきました。すると不思議なことに、のぼりきった所は広い野原になっていて、あざやかな黄色のタンポポが一面に咲いていたのです。
「まぁ、すてき!まるで黄色いじゅうたんみたいよ」
「マーヤ、あっちの森の方へ行ってみようよ」Picture66blog


二人は、おばあちゃまたちのことなんか忘れて、すっかりこの不思議な黄色の世界の冒険に夢中です。二人は、森の方へかけていきました。森の木の下にも、タンポポの花があふれていました。
森につくと、木の枝にとまって休んでいた小鳥たちが、いっせいに歌いはじめました。二人を歓迎して、歌であいさつをしてくれているようでした。

 
ピピピー  こんにちは、マーヤ!
 
ルルルー  こんにちは、ユーくん!

そして、甘い香りがぷーんとしてきました。あたりを見わたすと、おいしそうな果物が近くの木の枝にたわわに実っています。まるで、どうぞ召し上がってくださいといわんばかりです。
「ユーくん、あたし、のどがかわいたし、おなかもすいちゃったわ。ねぇ、あの真っ赤な実、食べられるかしら?」
「さぁ、どうかなぁ?はじめてみる果実だよ。でも・・・おいしそうだね。じゃぁ、ぼくがちょっと味見をしてみようか?」
ユーくんは、その真っ赤な実を、おそるおそる口に入れてみました。甘ずっぱい味が、口の中いっぱいに広がります。なんだかふんわりとしたいい気分になりました「とっても、おいしいよ。マーヤも食べてみたら?あ〰あ、とてもいい気持ち!」そう言うと、ユーくんはどんどんその赤い実を食べ始めたのです。
そして、ユーくんに負けずに食べはじめたマーヤも、ふんわりと雲にでも乗っているようないい気分になりました。

「ようこそ、私の国にいらしてくださいました。心から歓迎いたしますわ」
澄んだやさしい声がしました。
マーヤとユーくんがびっくりして声のする方をふりむくと、黄色のロングドレスを着た美しい女の人が、静かにほほえんで立っていました。タンポポの花を編んで作ったような王冠を頭にかぶっていました。黄色の美しい宝石が花の間できらめいています。
「わたくしは、タンポポ国の女王です。このタンポポ野原が気に入っていただけたかしら?昔、私の国は地球のほとんどの場所に広がっていました。でも今では、私たちの暮らせる原っぱがどんどん減ってしまって、世界中からタンポポの精たちが次々とここにもどってきているのです。あなた達の住んでいらっしゃる都会にも、タンポポ野原は消えてしまったことでしょう。とてもさびしいことですわ」
女王様は、こう話されると、少し悲しそうな顔をなさいました。

それを聞いて、マーヤは思いました。
(タンポポの花だらけの原っぱなんて、あたし、今日はじめて見たわ。そうだわ、ママが言っていたっけ・・・。ママの小さい時には、町のあちらこちらに空き地や原っぱがあって、タンポポの花がいっぱい咲いていて・・・その黄色い花を摘んでは、首飾りや冠や腕輪やいろいろな物を作って遊んだものよ、ってね。でも、あたしはその作り方さえ知らないわ。それもそうよ!だって本物のタンポポの首飾りなんて、一度も見たことがなかったんですもの)

「さぁ、こちらへいらっしゃいな」
女王様は二人に向かって優雅に両手を差し出すと、蝶々のように軽やかに歩き出したので、マーヤとユーくんはすいよせられるように、女王様の後ろについていきました。どこまでも続く広い黄色いタンポポ野原を、どのくらい歩いたことでしょうか?
「さぁ、着きましたよ」
女王様が後ろをふりかえり、二人を見てにっこりなさいました。
絵本でしか見たことのないような美しいお城が、目の前にありました。
マーヤとユーくんは、目をみはるほど立派な大広間に案内されました。真ん中には、たくさんのタンポポの花を編んで作り上げた揺りイスが、二つ置いてありました。二人がすわるのに、ちょうどいい大きさです。
「さぁ、おかけなさいな。私は、この国を訪れる人には、タンポポ国の春の夢をさしあげることにしているのです」

わくわくしながら、マーヤとユーくんはその揺りいすにすわりました。するとそのいすがやさしく揺れはじめます。きっと、小さなタンポポの精たちが心をこめて、ゆらゆら揺らしてくれているのでしょう。
「さぁ、これをお飲みくださいな。特製のタンポポジュースですよ。」
女王様が、美しく輝くクリスタルのグラスに入った黄色のジュースを持ってきてくださいました。一口飲んでみると、とろりと甘い味が口の中いっぱいに広がって・・・まぁ、なんてうっとりとした気分になることでしょう。
女王様はハープをとりだしますと、ゆるやかに弦をつまびきはじめました。

  ポロロン ポロロロ
 
ポロロロ  ロロロロ
Pictureblog65
マーヤは、森に囲まれた美しい湖でボートにのっていました。頭には黄色の花冠をかぶり、黄色の花の首飾りと腕輪をして・・・。これは、ママがタンポポの花で編んでくれたものです。ボートをこいでいるのは、たくましい体つきのパパ。ママは、楽しげになにか歌を口ずさんでいます。時々パパもつられて歌ったりしています。さわやかな春のそよ風が、ほほをくすぐります。
さぁ、そろそろボートからおりて、ランチタイムとしようよ」と、パパが言います。マーヤは、ママの持っている大きなバスケットのなかみを、あれこれ想像します。

ユーくんは黄色の気球に乗って、高いお空をふわりふわり・・・これから、パパとママと3人で世界旅行に出かけるのです。はるか下の方に、畑や川や森が見えます。家がマッチ箱くらいの大きさにしか見えません。遊び疲れた小鳥達が、気球のふちにとまって、ピーチクピーチク歌ってくれます。
「あー、ぼく、とってもお腹がすいちゃったよ」
「お食事にしましょうね。ユーくんの好物を沢山持ってきているのよ」と、花飾りがいっぱいついた大きな帽子をかぶったママが、やさしく言います。ユーくんは、なぜか胸がキューンとし始めます。
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「マーヤ!」「ユーくん!」
二人は、ハッとして目を覚ましました。二人はいつの間にか、あの大木の穴の入り口のそばにいて・・・木によりかかって居眠りしていたのです。
マーヤの目には、心配そうにたたずんでいるパパの姿が見えました。
ユーくんの目には、涙ぐんでいるママの姿が見えました。
「パパー!」マーヤは、ユーくんのパパにしがみつきました。そして、ユーくんも「ママー!」とさけんで、マーヤのママにしがみつきました。
「まあまあ、二人ともどうしちゃったの?パパとママを取り違えるなんて!」
マーヤのママが、おどろいて言いました。それから、ちょっぴり悲しそうな顔をしました。ユーくんのパパも、ひどくとまどっています。

「あのね、あたしたち、この穴の中にある縄ばしごを上ってね・・・タンポポ国に行ったのよ。でも・・・まぁ、おかしいわ!さっきの縄ばしごが消えちゃったわ」
木の根元の穴の中をのぞいたマーヤが、不思議そうな顔をして言いました。
「本当だ!おかしいな」ユーくんも、信じられないという顔をして、穴の中をのぞいています。
「あらあら、二人ともすっかり寝ぼけちゃって、いやーね。」
マーヤのママが、泣き笑いをしてそう言うと、二人をぎゅっと抱きしめました。

(でも、でも・・・さっきは、たしかに縄ばしごがあったのに!)と、
マーヤとユーくんは、そう思っています。Picture67blog


それから、一年後のことです。
マーヤはユーくんのパパと手をつなぎ、ユーくんはマーヤのママと手をつないで、さぁ、今日は四人で田舎へ出かけるのです。タンポポ野原のまだ残っているユーくんのパパの故郷へ。そこなら、まだ自然がいっぱい残っていたからです。大小4つのリュックの中には、テントや着替えや食料がたくさん入っています。今夜は、タンポポ野原でキャンプをすることになっているのです。
ユーくんとパパが、夕食当番を引き受けることになりました。
マーヤとママはタンポポの花を摘んで、すてきな髪飾りや腕輪を作るのです。そして今夜だけふたりは、女王様と王女様になるはずなのです。
今では、ユーくんにはやさしいママができ、マーヤにはたのもしいパパができたのでした。

                                                      <おしまい>

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2007年11月29日 (木)

<童話>ジュンちゃんとゴリラ

静まりかえった真夜中の病院の、小児科病棟の一室でのことです。
ぬいぐるみ人形のゴリラとウサギが、話をしています。
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「ねぇ、ゴリラさん!あなたって、なんてひどい姿をしているのかしら?体中よだれや手あかでコビコビに汚れているし、傷だらけよ。といっても、もともと色が黒いせいで、それほどには目立たないでしょうけれども・・・。とはいうものの、とてもお気の毒だわ」
「ふーん、ぼくのこと心配してくれてありがとう!でもね、ウサギさん、ぼくは今のぼくの姿に、とっても満足しているんだ」ゴリラはそうきっぱり言うと、かたわらに置いてあったおもちゃの笛をピィーと吹きました。

「まあまあ、負け惜しみの強いゴリラさんね。でも私をごらんなさいな。この純白に輝く美しい毛皮、ほんのりピンク色でピンと立った耳、小さなかわいい口元。本当は、私がうらやましいでしょうに・・・・・・。だってね、私の体にはシミ一つ、ついていないのよ」 ウサギはこう言うと、自慢げに胸を張りました。

「ウサギさん!君はちっとも知りやしないんだよ。僕のこの体のほころびやよだれや汗のにおいの、すてきな意味についてね」
「まぁ、変なゴリラなのね、あなたって!誰だって、美しい毛皮を身につけている方が、幸せにきまっているのに」


ゴリラはだまったまま、手に持っていた笛をピロピロピローと吹きました。
ゴリラは思い出していました。あのすてきな出会いの日のことを・・・。あれは、デパートのおもちゃコーナーでした。たくさんのぬいぐるみの動物に囲まれて、ゴリラはとてもひとりぼっちでした。
子どもたちは、コアラやパンダやウサギといった動物が大好きで、ゴリラになんて、なかなか心をひかれません。それもそのはず、色は真っ黒で目立たないし、ひどく間の抜けた顔をしていたからです。

でもあの日、ジュンちゃんと出会った瞬間、ゴリラは感じたのです。ジュンちゃんと自分との間に、深いきずなの心の橋が突然にできあがったことを!ュンちゃんは、さっとゴリラのすわっているところにやってきて、ゴリラをそっとやさしく抱きしめてくれたのです。
ジュンちゃんは5才のお誕生日を迎えたばかりの男の子でした。

「まぁ、ジュン!ゴリラさんがいいの?でも、あっちのコアラさんやウサギさんの方が、かわいいんじゃない?」と、ジュンちゃんのママがいいました。
「ううん、ボクはゴリラさんがいいの。だって、このゴリラさん、なんだかひとりぼっちでさみしそうなんだもの。ボクがお友だちになってあげなくちゃ!」

そして、その夜からジュンちゃんとゴリラは、いつも同じベットに眠り、いっしょに遊ぶようになったのです。遊園地に遊びに行く時には、ジュンちゃんは背中のリュックにゴリラを入れて、いっしょに連れて行ってくれました。もちろん頭だけは、リュックから出してくれましたから、ゴリラも遊園地を十分楽しむことができました。ゴリラは、ジュンちゃんの行くところには、どこでもお供しました。
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ある日、ゴリラはジュンちゃんと、ジュンちゃんのパパとママといっしょに、白くて大きな建物に入っていきました。なんだかプーンと、消毒薬のにおいがしました。たくさんの白い服を着た人たちが、忙しそうにあっちへ行ったり、こっちに来たりしていました。

そして、その次の日からジュンちゃんとゴリラは、この建物の一つのお部屋に住むことになったのです。
「ゴリラ君!ボクね、少しの間この病院に入院することになったの。ボクね、病気なんだって。それで、少し安静に寝ていなくちゃいけないんだって。でも・・・・・君がいつでもそばにいてくれるから、さびしくないよ」


初めのうち、ジュンちゃんはゴリラにいろいろ話しかけてくれたし、いっしょに遊んだりしました。でもやがて、いつもウトウト眠っていることが多くなりました。
そしてある日、お見舞いに来てくれた人が、純白のウサギのぬいぐるみを持ってきてくれたのです。でもジュンちゃんには、すでにそのウサギを抱きしめる力はなくなっていたのです。


「・・・だからね、君はそんなにきれいな真っ白の毛皮を持っているのさ」ゴリラは、ウサギにジュンちゃんとの出会いの初めからのことを、くわしく話してあげた後で、気の毒そうにウサギを見て、こう言ったのでした。
「でもウサギさんはね、ボクみたいにジュンちゃんと親しくなれなくって気の毒だなぁ。ジュンちゃんってね、本当はとってもゆかいな子なんだよ」


「まぁ、とても信じられないわ。だって、私の知っているジュンちゃんは、いつも目を閉じて、静かに眠ってばかりいるし・・・ジュンちゃんがお外を元気に走り回っている姿なんて、私にはとっても想像できないわ。
ねぇ、ゴリラさんお願いよ。せめて、あなたの知っているジュンちゃんのことを、私に話してくださいな」

そこで、ゴリラはウサギさんにジュンちゃんのことを、何日もかけていっぱい話して聞かせてあげました。ジュンちゃんのお気に入りの食べ物や遊びや、くせとか・・・なにもかも。

「ある時ね、ボクとジュンちゃんは、アフリカのボクの家族に会いに行くことにしたんだよ。リュックにおみやげの果物を、たくさんつめてね」そう言うとゴリラは、うっとりと幸せそうな顔をしました。Picture59blog
「まぁ、アフリカなんて、とってもとっても遠いところにあるのよ。二人で歩いてなんか行けやしないわ。うそばっかりいわないでよ。いやーね!」ウサギはそう言うと、つーんとすましました。

「うそじゃないんだ。ボクとジュンちゃんは夜ベットに入る前に、いろんな風なことを想像して心からそれを願うんだ。すると、いつの間にか二人とも、ちゃんと行きたいと願った場所にいて、やりたいことをやっているんだよ。そのかわり、そんな夜の次の日は、二人ともひどく朝寝坊をしてしまうんだけどね。

ある時は、エジプトのピラミッドのてっぺんでサンドイッチを食べたし、南極でペンギンたちと鬼ごっこもしたし、ラクダやゾウの背中にも乗せてもらったし。ジュンちゃんがここに入院してからも、今ほど容態が悪くなる前は、二人で世界中どこでも旅行したんだよ。本当に楽しかったなぁ!」 

それを聞いて、ウサギはあきれはてて、もうこれ以上話を聞く気がしないという表情をして、冷たく言いはなちました。
「実際に行ったわけではなくて、空想上で行ったつもりになっただけじゃないの。まったくあきれたひとね。そんなことなら誰にでもできるわよ。ばーかみたい!真剣に話を聞いてあげていたら、そんな作り話を始めるんだもの」Picture60blog

ウサギにすっかり馬鹿にされたゴリラは、なんだか哀しい気持ちになってうつむきました。そしてまた笛を手にすると、ピロピロピローと吹きました。

「ねぇ、ジュンちゃん!ボクたち、行ったつもりではなくって、本当に行ったんだよね。だって、目を閉じると今でも、いろいろな楽しい光景が、ありありと浮かんでくるもの。ねぇ、ジュンちゃん!あれは空想なんかじゃなかったよね」
でも・・・・ジュンちゃんは、夜の闇の中で静かに眠っているだけでした。そして、ウサギさんもいつの間にか眠りに落ちていました。

ゴリラはまた、そっとそっと笛を吹き始めました。
ピロピロピロー  ピロピロピロー

「あなたは、笛がお上手ね」
とつぜん、誰かがゴリラにそう話しかけました。やさしくって、なぜかなつかしい声です。ウサギさんの声ではありません。ウサギさんは相変わらずスヤスヤと軽い寝息を立てています。
「えっ、あなたはいったいどなたですか?」

すると、ゴリラのほほのあたりを、甘い花の香りがさっと通り過ぎました。

「私は、風の精よ。私は、世界中を旅しているわ。そう・・・エジプトも南極もアフリカも、あらゆる所を旅しているのよ。
私はあなたとジュンちゃんが大好き・・・だから、ときどき真夜中になると二人をこっそりと、世界中への旅に連れ出してあげたのよ。
あなたの見たものはすべて本物よ。夢なんかじゃないわ。といってもね、二人の体はそのままにして、心だけを私の透明な衣でつつんで、私の旅のお供をしてもらったのだけれども。
それに本当のことを言うと、これは星の王国の女王様のご希望でもあったのよ。

星の王国には、子ども村というのがあって、人間や動物たちのあらゆる子どもが住んでいるの。と言うか正確には、小さな子どもの時に地球での生命の火を消してしまったものたちが、住んでいるということなの。
世の中の楽しいこと、おもしろいことなどを、ほとんど何も知らないうちに、星の国に召されてしまった人間や動物の子どもたちは、毎日悲しそうな顔をして、なつかしい家族のことだけを思い出しているのよ。

星の女王様は、これではいけないわ!とお思いになって、私に相談なさったの。
時々この病室をのぞき見していた私は、あなたとジュンちゃんのことを、いろいろお話ししたわ。女王様はあなた達二人を、星の国の子ども村の吟遊詩人というかお話の語りべとして、ぜひお召しになりたいと思われたのよ。というのもね、女王様はご存じだったからなの。ジュンちゃんが悪性の病気におかされていて、地球上での命が、もう余り長くないことをね・・・。

そこで、ジュンちゃんの命がある間に地球のあらゆる場所を旅して、いろんな物を見たり、いろんなこと経験してきてほしかったのよ。これまでにあなたとジュンちゃんは、たくさんの悲しみ、喜び、美しさ、汚さを、世界中で見てきたわ。どうぞ、その同じものを、星の国の子供たちにも、いっぱい話してあげてくださいな」

風の精の話をじっと聞いていたゴリラは、思いつめた表情で言いました。
「えっ?でも・・・いつ、どうやったら、ボクとジュンちゃんは一緒に星の国へ行けるの?だってジュンちゃんの病気はとっても重くなってい、今では動くこともできないし、一言だって話すこともできないんだよ。
それとも星の国に行ったら、ジュンちゃんは今とはぜんぜん違って、自由に動き回ったり、おしゃべりしたりできるようになるのかなぁ?」

「それは大丈夫よ。ジュンちゃんは、あと数日で地球での命を終えることでしょう。そうしたら、私があなたとジュンちゃんの魂を迎えに、ふたたびここにやってくるつもりよ。星の国では、重い体は必要ないのよ。必要なのは心だけなの」

そして、それから3日後の真夜中のことでした。白いウサギは、淡い銀色の光の中で、はっきりと見たのでした。うす紫色の長い衣を身につけて、長い長い銀色に輝く髪をした美しい女の人が、ジュンちゃんのベッドの脇に立っているのを・・・。そして、ウサギは聞いたのでした。その女性が澄んだ美しいソプラノで、優しく呼びかけるのを・・・。
Picture61blog_2「ジュンちゃん!ゴリラさん!さぁー今夜が旅立ちよ」
「うん!待っていたよ。早くボクたちを星の国に連れて行ってね」と、ゴリラさんがうれしそうに答えたのでした。


ジュンちゃんも、幸せそうにほほえんでいるのが、銀色の光の中にぼんやりと見えました。

やがて・・・・・その女神のような女の人の腕の中に、透きとおったジュンちゃんとゴリラさんの体が、そっと抱かれているのを、ウサギは見たのです。
そして、突然、一陣の風が吹いたかと思うまもなく、すべてが真っ暗闇の中に消えていってしまったのでした。

ウサギは、なんだか胸がキュンとなって、泣きたくなりました。でも、けっして悲しいからではありません。とってもうれしかったのです!
そして、ウサギは思いました。
(あたしも、あたしのジュンちゃんをさがさなくちゃー!そうよ、その子にね、あたしをしっかり抱きしめてもらうのよ。このご自慢のまっ白のふわふわの毛が、灰色に薄汚れるまでね。そして、いっぱい、いっぱい、よだれや汗のにおいをつけてもらうのよ)
ウサギは、そう心を決めると・・・・・・すやすや眠りに落ちていきました。

それからしばらくたった、ある夜のことでした。ジュンちゃんのいとこの幼い女の子の胸にしっかり抱かれて眠っていたウサギは、夢の中で風の精がこう話してくれるのを聞いたのです。

「ウサギさん!ウサギさん!ジュンちゃんとゴリラさんはね、星の国へ行くと、すぐにみんなの人気者になったのよ。二人は、たくさんの子どもたちの前で、毎日、いろいろな世界めぐりの旅の話をしてあげているのよ。もう今では、星の国の子どもたちは一人残らず地球上のあらゆる所を旅した気分になっているの。子ども村からは、いつも明るい笑い声と、楽しげなおしゃべりがきこえてくるのよ。だって二人とも、とってもお話が上手なのですもの。
Picture63blog
それにね、笛の上手なゴリラさんは、星の国になんと子ども音楽隊を作ってしまったの。ときどきコンサートも開くのよ。そんな時、ジュンちゃんは独唱するの。ボーイソプラノで、とってもやさしく心を込めて歌うのよ・・・」

                 <おしまい>

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2007年11月19日 (月)

<童話>とん平さんの恋人

              夕日 作

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古びた小さな建物の一室に、一人のさえない風貌の男の人が、ハンカチで汗を拭きふき、かけこんできました。

「トントンとんまのとん平君!また今日も遅刻かい?」
「は、はい!どうも申し訳ございません。
ちょ、ちょっと、寝坊いたしまして・・・」
「遅刻した分、お給料を減らすからね」
「は、はい・・・・よ、よくわかっております・・・」

とん平さんは、もう40才を過ぎたというのに、いまだ一人暮らし。
しょっちゅうヘマばかりやっています。
本当は《とん平》ではなく《てつ平》という名前です。哲学の哲という字を書きます。
でも誰も本名でなんかは、呼んでくれません。
みんな、トントンとんまのとん平さんと呼ぶのです。
まだ若い女子事務員でさえ、そうなのです。

とん平さんは、小さな出版社で、校正の仕事をしています。
校正というのは、未完成のゲラ刷りの原稿の間違いを見つけて、それを訂正したりする仕事です。

「自分で文章を書くのならともかく、他人の書いた文章を見直すだけなんて、ずいぶんとつまらない仕事ね。でも、独創性のないあなたにはぴったりの仕事かもよ。
まあ、せいぜいがんばって下さいな。おほほほほ・・・さようなら」
大学時代の親しかった女友だちは、こう言って彼の元を去っていきました。


でも・・・とん平さんは、この仕事を心から愛しています。見知らぬ誰かが心をこめて書いた原稿を手にする時、とてもワクワクします。
その原稿を立派な一冊の本にするには、とん平さんみたいな人の、縁の下の力が絶対に必要なのです。

「まぁ、この家ってひどいわね。ろくな食べ物がありゃしないわ。まずそうな、ひからびたパンのかけらと、腐りかけた野菜だけよ。ねえ、この家はよして、隣の家の台所に行きましょうよ」

ある夜中、ネズミの夫婦がこう話しているのを、とん平さんは布団の中で、はっきり聞いたのです。
「あーあーネズミにも相手にされないんだなあー!」
とん平さんは、深いため息をつきました。

とん平さんは、今日もビオラを練習中・・・・
「えっ?とん平さんが、クラシック音楽を?」なんて、びっくりしないで下さいな。
クラシック音楽の大好きなとん平さんは、時には一張羅の背広を着て、ちょっぴりすまして、コンサートに行くこともあるのです。Picture53blog

(ビオラというのは、バイオリンのようにきらびやかな音でもないし、チェロみたいに深みのある重々しい音でもないけれども、しっとりと落ちついた柔らかい音色を持っているんだ。僕は心からこの楽器が好きなんだよ!いつか、もっと上手になったら、アマチュアのオーケストラの団員に加えて貰いたいなぁ!)
とん平さんは、いつもこう思っています。とん平さんにとって、ビオラは憧れの恋人みたいな存在なのです。

でも・・・とん平さんは、じつのところ、まったく音楽の才能がないようです。いくら練習しても、ビオラの腕前はさっぱり上がりません。
とん平さんは、夜、布団の中で天井をみつめながら、こう思います。
(こんな時、セロ弾きのゴーシェの家には毎晩ちがった動物が現れて、演奏の下手くそなゴーシェに、いろいろと音楽の手ほどきをしてくれたんだな。いつか、僕にもそんな日がやってこないかなぁ!) 

けれども、とん平さんの所には、だあれも来てはくれません。あいかわらず、とん平さんのビオラは、ギィギィ ギギ ギィーギィーという苦しげな悲鳴をあげているばかりなのです。

「まあ、なんてひどい音なの!あなたね、いくら下手の横好きといっても、全く音楽性のかけらもないのにビオラのような難しい楽器をやろうなんて、練習するだけ無駄よ。これは明らかにご近所に騒音公害だわ。
じゃあね、さようなら・・・」こう冷たく言いきって、とん平さんの元を足早に去っていった女友だちもいました。

ある春の初めの、とても爽やかな朝のことでした。
とん平さんが、お部屋の出窓の所をなにげなく眺めたら・・・まぁーなんということでしょう!そこにずっと置きっぱなしだった鉢植えの観葉植物が、小さなつぼみをつけていたのです。
7年前に近所の花屋さんで買ってきて、その後何度か枯れそうになりながらも、なんとか育ってきたものだったのです。

「へぇー、びっくりだよ。この植物が花を咲かせるなんて、夢にも思わなかったな!まさに、ラッキーセブンの七年目か」
そして、とん平さんはなぜか固く信じたのです。きっと、まもなく自分にも、すてきな春がめぐってくるにちがいないと・・・。
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「トントンとんまのとん平君!君ね、この頃なんだか少し変じゃないかい?朝は早いし、ミスは少なくなったし、仕事中に鼻歌は出るし。いったいどうなっているんだい?君が変だと、こちらまで調子が狂うよ」
プカプカとタバコをふかしていた上司が、ある時突然、そんなことを言いました。 

そうなのです!
とん平さんは、近ごろやたらと心がウキウキしてしまうのです。
とうとう、窓辺の鉢が白い可憐な花を咲かせたのでした。
(今度こそ、いよいよ僕の番だ!)
とん平さんは、そう強く思っています。

それから数週間が過ぎた、ある日のことでした。
とん平さんは、春の甘い香りを、そしてさわやかなそよ風をまさに心に感じたのでした。
それは、ある童話を校正していた時のことです。


 星 さやか作 《風の歌った恋》

その文章の中には、まさに春の息吹がみちみちていました。少年と少女との甘美な出逢い。そこには、爽やかな詩と音楽がありました。とん平さんは、いつのまにか、童話作家の星さやか嬢に、恋をしてしまったのです。Picture16

彼女の童話にいつも出てくる色白で手足が細長くって、木綿の白いワンピースの似合う少女・・・・。
きっと作者自身も、こんな人に違いない。そうじゃなかったら、こんなに初々しくって、やさしさにあふれた文章が書けるはずがない。とん平さんは、そう信じて疑いませんでした。

何日も思い悩んだ末、ある日、とん平さんは決心をしました。ぜひ、その星さやか嬢を訪問して、一言でいいから言葉をかわしたいと。
それから数日後、とん平さんはとびきりのおめかしをして、ピンクのバラの花束を持って、星さやか嬢の家を訪れました。
それは猫の額ほどのお庭のある、小さな家でした。手入れの行き届いたお庭には、春の花がやさしく咲いていました。

とん平さんが、思い切ってドアのチャイムを押すと、出てきたのは80才位にはなろうかと思われる和服姿の品のいいおばあさんでした。そしてなんと、その人がまさに童話作家〈星さやか〉その人だったのです。

「まぁ、わたくしの文章を気に入って下さって、とてもうれしゅうございま
すわ。わたくし今は、童話の世界に遊ぶことだけが、生きがいですのよ」

手作りの和菓子をごちそうになり、お抹茶を出されても、とん平さんはちっとも味がわかりませんでした。あまりに失望感にうちのめされていて、肩をがっくり落としたままでした。

「どうぞ、また、ちょくちょくお遊びにおいで下さいましね」
 
とん平さんは、その夜、お酒をガブガブ飲んでふて寝をしました。それなのに、どうしたわけでしょうか?次の日になると、無性にあのおばあさんのことが気になるのです。
そして一週間後、再びとん平さんは、あのおばあさんの家を訪れたのです。
手には、春の香りがいっぱいつまった黄色のフリージアの花束と、桜餅とを持って・・・・。

それからは週末になると、郊外にあるあの小さな家の庭先からは、とん平さんとあのおばあさんの笑い声が、聞かれるようになりました。
「・・・まぁ、そうなの、それはがっかりだったでしょうね。オホホホホ・・・あなたは、わたくしの初恋の人にとってもよく似ているのよ。外観がじゃなくってね、あなたの心根が、とでもいったらよいかしら?
きっとそのせいね。あなたとお話ししていると、わたくしの心は、かっての夢見る少女時代に、すぅっと戻ってしまうのよ・・・どんどん素敵な童話が書けそうよ。ふふふ」Picture55blog

とん平さんもそうでした。
なぜか不思議なことに、現実の地味な着物姿のおばあさんと、おしゃべりをしているのではなくって・・・・ポニーテールをたらした木綿の白いワンピース姿の少女と語り合い、笑いあっている気分になっていたのです。

おばあさんの家からは、時にはなんと、あの苦しげなうめき声に似たビオラの音さえも、聞かれるようになったのです!

「ビオラの音色って、わたくしも、とっても好きになりましてよ。
なんてしっとりと、おだやかに心に響いてくるのかしら?
また近いうちに、ぜひビオラの演奏を聞かせて下さいませ。
わたくしね、ビオラをひいている時のあなたの真剣な表情を見るのも、とっても好きなのよ」

でも、とん平さんのビオラの腕前は、前とちっとも変わっていないのです。あいかわらず、ギィギィ ギギ ギィーと悲鳴をあげているばかりです。
どうやら星さやか嬢は、とん平さんのビオラの演奏を、その二つの耳でというよりも澄んだ心の耳で、静かに聴いて下さっているに違いありません。

とん平さんは、今日も、一生懸命にビオラを練習しています・・・                      

                 <おしまい>

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2007年11月16日 (金)

<童話>音吉とオーボエ

                       夕日 作
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その町の公園通りには、夕方になるといつも、屋台のラーメン屋さんが店開きをしていました。そのラーメン屋のおじいさんは、どんなときも素敵な笑顔でお客さんを迎えてくれるので「音吉じいさ~ん」と呼ばれて、お客さんたちから慕われていました。なぜかオーボエが大好きで、お客さんのいない暇な時間には、きまって静かにオーボエを吹いていました。
ラーメン屋さんなのにチャルメラじゃなくって、どうしてオーボエを?
じつは、それには深いわけがあったのです。

そのオーボエは、音吉じいさんのお父さんが、大切に使っていたものでした。そのお父さんは、この町の音楽学校を出てまもなく才能を認められて、町のオーケストラで、オーボエ奏者として活躍していたのでした。
晩婚であったお父さんは、年を取ってから思いがけず男の子が生まれた時に、大切なオーボエをその子にゆずろうと心に決めたのでした。そして「将来は自分のような音樂家になってほしい」という願いを込めて、その子に「音比古」という洒落た名前をつけました。でも年をとった音比古じいさんは「おじいさんは、なんというお名前ですか?」と聞かれた時につい「音・・・音、音吉じいさんと呼んで下さいよ」と答えてしまいました。そして今では、自分でも「音吉」の名前の方が気に入っていました。というわけで、このお話も音吉という名前を使うことにします。

さて音吉は、小さな頃からお父さんを先生として、オーボエを練習することになりました。でも小さな子どもにとっては、とても難しい楽器でした。すぐに息が切れて・・・・音が出なくなってしまいます。教えるお父さんも一生懸命でしたが、音吉だって必死でした。それなのに・・・・いくら練習しても、ちっとも美しい音が出ないのです。

やがて・・・・お父さんが亡くなりました。周りのみんなが、音吉も父さんのような一流オーケストラのオーボエ奏者になることを、期待していました。でも・・・・いくら練習しても、音吉のオーボエからは、苦しげな濁った音が出るばかりでした。
そのうち・・・・音吉は毎晩のように、夢にうなされるようになりました。夢の中で、大きな丸太ほどの巨大なオーボエに追いかけられて、押しつぶされそうになるのでした。Picture49blog

やがて音吉はだんだんに、練習をするのが苦しくなり始めました。それでも、歯を食いしばってがんばりました。

それから数年が過ぎ、音吉も、立派な青年となっていました。でも、音吉のオーボエの腕は上がらず、音楽大学へ進学することはできませんでした。音吉はその町の別の大学で学ぶことになりました。
そしてある時、一人の清楚な少女に恋をしました。
その少女は、ハープを弾きます。
ある春の夕べ、アマチュア室内楽団の一員として、公園での野外コンサートに出演していたのです。音吉には、純白の木綿のレースのワンピースを着て、ハープを奏でていた少女がまぶしくって、まるで天使のように見えました。すみきった流れるような音色が、ポロロロロ・・・と、その指からつむぎだされるのでした。Picture41blog
その夜から音吉は、丸太につぶされる夢と天使の夢を、交互にみるようになりました。

そしてある日、音吉は大決心をして町に出かけました。
《アマムジカ室内合奏団》という看板のある小さい建物の前に立ち、勇気をふるってドアをノックしました。
「どうぞ、お入りくださいな」
その優しい声は、あのハープの少女でした。
「あ、あのうー、僕もオーボエを吹きます。僕も皆様のお仲間に入れていただけませんか?」音吉は、おそるおそるそう聞きました。
「いいとも。楽器を少しだけ上手にひける人なら、誰でも大歓迎だよ。」
中で一番年上らしいチェロを持った人が、にこにこしながら言いました。それから、こうつけくわえました。
「せっかく来てくれたのだから、とりあえず君の演奏を少しだけ聴かせてはくれないかなぁ」

そのとたん、音吉の心臓はドッキンドッキンと、騒がしい音を立てはじめました。音吉は夢中でオーボエを取り出すと・・・まるで何かに憑かれたように、吹きはじめました。なんだか夢と同じに背後から巨大なオーボエが、音吉を襲ってくるような恐怖を感じて・・・目をつぶって、やみくもに吹いていました。
吹き終わって、おそるおそる目をあけると、あの少女が悲しそうな目で音吉を見つめていました。そしてチェロの人もその場にいた他の人も、一言もしゃべらずにただ、古ぼけた木の床をみつめるばかりでした。

音吉はとても不安になって「あのぅー僕、下手すぎますか?入れては頂けないでしょうか?」 と、どぎまぎしながら聞きました。
するとチェロの人が苦笑いをしながら、こう言うのでした。「君の音は、あれはオーボエというよりも、まるでチャルメラだね。ほら、屋台のラーメン屋さんがよく吹いているだろう。あれと同じさ!とても音楽を奏でているとは言えない代物だよ」
「僕たちは、これでも一応芸術家のはしくれだからね」フルートを持った別の若者が、誇らしげにこう言うのでした。

その帰り道、音吉は何度もオーボエを途中の川に捨ててしまおうと思いました。でもお父さんの大切な宝物です・・・とてもとても捨てられませんでした。
やがてふと気づくと、音吉は公園通りを歩いているのでした。野外ステージのあるあの公園です。
音吉は急に、その野外ステージに行ってみたくなりました。そして、いざその客席にすわってみて、誰も人のいない舞台をみつめていると・・・・音吉はなんだかとっても悲しい気持になりました。

パチパチパチ  パチパチパチ....
いつのまにか音吉は舞台の上にいて、黒いタキシードに白い蝶ネクタイをして立っていました。すぐわきを見ると、純白のロングドレスを着たあの少女が、ハープのそばに立ってほほえんでいました。「お客様は、演奏が始まるのを今か今かとお待ちよ。ホラ、一緒にご挨拶をしましょう!」という風に、少女は音吉に目で合図をしました。
音吉は、あわてて深々とお辞儀をしました。

少女が、ゆるやかにハープを奏ではじめました。そして音吉も大きく深呼吸をして・・・それから静かにオーボエを吹きはじめました。
オーボエはなんて柔らかなあたたかな音色で、歌うことでしょうか?音吉は、自分が吹いているのだとは、とても信じられませんでした。
ハープが優しくよりそうように歌うのでした。舞台の横手にある大きな木が、その白い花びらを一枚また一枚、音吉の上に舞い散らすのでした・・・
ああ、とてもいいかおり・・・Picture44blog

少し寒気を感じてハッと気がつくと、なんと音吉はオーボエを胸に抱いて、客席のいすにもたれて眠っていたのでした。あたりはすっかり真っ暗でした。空を見上げると、たくさんのお星様が静かにまたたいていましたし...お月様もやわらかな光で、あたりをそっと包んでくださっていました。

「ぼくは夢をみていたんだなぁー!でもなんてすてきな夢だったことだろう!」 
音吉はそれから、オーボエを胸にぎゅうっと抱きしめました。
「ああー、僕はオーボエが大好きなんだ!」
音吉はそのとき初めて、心からオーボエが大好きなことに気づきました。
「でも・・・僕の吹くオーボエの音はとてもひどくって、まるで音楽といえた代物じゃないらしいんだ。誰にも馬鹿にされずに、大好きなオーボエを吹くにはどうしたらいいだろう?」

でも音吉は結局、その後オーボエを手にすることは、ほとんどなくなりました。大学を卒業した音吉は、音楽とは全く縁のない仕事につき、毎日忙しく日本中を走り回ったのでした。いろいろな女性と出会いましたが、あの少女との出会いみたいには心がときめかず・・・ずっと一人で仕事に生きてきました。ただ、オーボエの演奏会がある時には、できる限り聴きに行くことにしていました。オーボエの柔らかい音に包まれている時が、音吉の一番幸せなひとときでしたから・・・。

何十年かが過ぎ仕事の定年を迎えてから・・・音吉は、故郷の小さな町に戻りました。なんと音吉は、屋台のラーメン屋さんになったのでした。そして、チャルメラがわりにオーボエを毎晩吹くことにしたのです。ラーメン屋さんなら、いくら下手くそに吹いたって、誰にも馬鹿にされませんもの。これでやっと、大好きなオーボエと毎日いっしょにいられます。

それから・・・その町の公園通りには、いつも音吉のラーメン屋さんが店開きするようになりました。あの野外ステージのすぐそばでした。道の両側には花壇があって、四季折々に色とりどりの花が咲きみだれます。だからラーメンをすすりながらお客さんは、美しい花をながめることができますし・・・それに実は、音楽の演奏付きのこともあったのでした。というのも春や秋には、野外ステージでたくさんのコンサートがひらかれるからでした。

音吉は夜中近く仕事が終わってから、人通りの途絶えた公園でゆっくりとオーボエを吹くことにしていました。お客さんの前では、チャルメラ代わりとして以外は吹かないことにしていました。なぜって、せっかくのラーメンの味がまずくなってはいけないからでした。でも、木枯らしの吹く冬の日の夜などは、道を歩く人もまばらですし、北風の音にまぎれてしまうので、安心してオーボエを吹くことができました。

ラーメンの準備をしながら音吉は、はるか昔の青春時代のことを思い出すことが多くなりました。


あの頃・・・音吉の通っていた大学の近くに、あのハープの少女が入学した音楽大学もありましたから、音吉はしばしば、あの少女が楽譜を山ほど抱えて歩いているのを見ていました。少女は心をときめかす音吉には目もくれずに、早足で通り過ぎるのでした。
音吉はまた、公園の野外ステージから聞こえてくる、あの少女のつまびくハープの流れるような音色に、ひとり胸を熱くしたものでした。

それから数年がすぎ・・・公園のベンチでのんびりと本を読んでいた音吉は、見たのでした!今は美しい女性となったあの少女が、フルートを手にした青年と肩を寄せあい、楽しげに公園を散歩している姿を!彼女の左手には、ダイヤの指輪がまぶしくきらめいていました。

音吉はその夜遅くあの野外ステージに行き、客席のベンチにうつぶして、思いきり涙を流しました。やがて気を取り直すと・・・オーボエを取り出し、心をこめて磨きました。それからステージにかけ上がると、オーボエをゆっくりと吹きはじめました。
今夜は、自分一人だけのためのコンサートです。曲目は・・・エレジーとかいった短調の悲しい曲ばかりです。音吉はもう、上手に吹こうとか、人に聞かれたら恥ずかしいとかいう気持は、すっかり消えていました。ただ夢中で、大好きなオーボエを吹き続けていました・・・。




さて・・・いつからか音吉は、ラーメンを作ってお客様に出してしまうと、お客様の前でオーボエを吹くようになっていました・・・。

えっ、下手くそなのに、お客さんに嫌がられないかしらですって?でもオーボエを吹きはじめたのは、お客様からの希望だったのです。
「夜遅く公園を散歩していたら、どこからか、やさしくって心にしみとおる笛の音が聞こえてきたんだよ。そしてその音色に誘われて・・・ふっと気づくと、ここに来ていたというわけなんだ・・・」

音吉はびっくりしました。いまだかって、オーボエの音をほめられたことなんてありませんでしたから。きっとこの人は、耳が少しおかしいにちがいないよ・・・そう音吉は思いました。
でもまたある日、別のお客さんがやってきて、同じようなことを言いました。そして、こうつけ加えさえするのでした。
「どうか、オーボエを吹いて聞かせては貰えないだろうか?」
そしてそれから音吉は、時々客さんの前で、オーボエを吹いて聞かせるようになったのでした。

音吉は思いました。僕は美しい音ですてきに吹くことは出来ないけれども、心をこめて吹くのなら誰にも負けないつもりだ、と。
それにしても、音吉のオーボエを聴きたいなんて、この町にはずいぶん物好きな人もいるものね、ですって?
じつは・・・音吉自身は気づいていませんが、音吉は今では、オーボエをとても澄んだ音色で、すてきに吹くことができるのです。あの青年時代の失恋した夜、公園のベンチでおもいっきり泣いたとき、音吉の喉に長いことひっかかっていた何かが、突然ポロリと下におっこちて、見るまに溶けてしまったのでした。それは不思議な透明な結晶で、涙からできていました。Picture42blog

音吉はそれまでどんなにつらいことがあっても、ほとんど涙を見せたことがありませんでした。
(僕は男の子だもの、歯を食いしばって頑張らなくっちゃ!)
でも子供なら誰だってつらくて悲しい時、思いっきり泣きたいこともあるはずです。音吉はその涙をためて、ためて・・・いつの間にか水晶の玉みたいに固めてしまったのでした。そんなものが喉にひっかかっていては、美しい音がでるはずがありません。そして今ではそんな余計なものは、どこかに溶けて消えてしまっていたのです。だから音吉は、今ではオーボエを、とてもすてきに吹くことができるのです。でも音吉自身は、そのことを知りませんでした。
だからいつもこう思っていました。
(僕みたいな下手くそなオーボエ吹きでも、喜んで聞いてくれる人がいるなんて、なんてうれしいことだろう!)
それで、お客さんからオーボエを聞かせてほしいと言われると、心をこめて吹くのでした。

音吉のラーメン屋さんにやって来る人々は、どちらかと言うと貧しい人々が多いのでした。町に住むお金持ちの多くは、最新流行の洋服を着てつーんとすまして、しゃれたレストランに出かけます。アルバイトをしながら学校へ通う学生、住み込みの店員さん、工員さん、そんな人々が音吉の大切なお客様でした。
すてきな音楽をききながら、色とりどりのお花をながめながら、お食事をする・・・たとえラーメン一杯だとしても、それはなんてぜいたくなことでしょう!その人達のほとんどは、音吉の吹く曲そのものは初めて聞くものばかりでした。でもバッハであろうとモーツァルトであろうと、どうでも良かったのです。その人達が聴きたかったのは、音楽というよりも音吉のオーボエの音色の暖かさ、優しさそのものでしたから・・・

それからまた長い月日がたち・・・音吉は白いお髭の似合うおじいさんになっていました。そして、ずっと独りぼっちで暮らしていました。でも、これまで、音吉のオーボエの音に慰められた貧しい人々は数えきれません。それは、立派なホールでのコンサートなどとは、全く無縁の人々ばかりでした。
そして今では、音吉のオーボエの音色は、一流のオーケストラのオーボエ奏者にも負けないだけの美しさを持つようになっていました。いや、その音色の持つ暖かさ、優しさにおいては、音吉以上の音を出せる人がほかにいたでしょうか?Picture43blog

音吉じいさんは今晩もまた、ゆるやかに歌うように、オーボエを吹いていることでしょう。
ほら、静かに静かに、そっと耳をすませてごらんなさいな。あなたにも、聞こえてきやしませんか!あの心に染みいる美しい音色が・・・

                    <おしまい>

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2007年11月13日 (火)

<童話>赤いベレー帽

Picture35blog 日が落ちて、ヒグマの母さんが帰ってみると、おやまあ、驚いたことに、巣にしている木の洞の中で、ヒグマの坊やによりそうようにして人間の女の子が眠っていたよ。
 
 グゥグゥ グゥー
 スゥスゥ スゥ

赤地に黒い水玉模様のジャンパースカートに、大きなレースの衿のついた白いブラウスと白いソックス。ベレー帽と靴は、あざやかな赤色のお揃い。
その女の子のあまりのかわいらしさに、ヒグマの母さん、声もなく、しばらくじっとみつめていたよ・・・。

 さて、ヒグマの母さん考えた。
(この女の子は、いったいどこからやってきたの?私たちのすむこの森は、四方を断崖絶壁で囲まれた谷底にあって、けっして人間の近づけない場所のはずよ。こんな小さな女の子がどうしてここに?)
そのうちに、一匹と一人は目を覚まし・・・

「あっ、おかあちゃん!ぼくお腹がへっちゃったよ」
「あたしもそうよ、とってもお腹がすいちゃったわ!
 だって、朝からなぁーんにも食べていないんですもの。
 あらっ?とってもいいにおい!あまーい果実の香りがするわ」
「ほら、お食べ!大食漢の坊やのために、たくさんもいできたからね」

 ヒグマの母さん、大きな葉っぱに果実を山盛りにしたのを、地面にドサリ。
 坊やも女の子も、お腹が一杯になると、ふたたびよりそってグゥグゥ スゥスゥ・・と、そのまま朝まで深い眠りにおちてしまったよ。
 
 おっはようー     ピピピピ ピー
 おっはようー     ピピピピ ピー
 お日様が昇り、小鳥達が朝のあいさつにやってくるよ。
 大きな木は、いろいろな動物達のアパート。
 木の根元の大きな洞は、ヒグマ親子のすまい。真中の小さな穴はキツツキ親子のすまい。梢の方は、小鳥たちのすまい・・・となっているよ。Picture36blog

朝ご飯を食べてから、ヒグマの母さん、女の子をひざにのっけてたずねたよ。
「ねえ、あなたはいったいどうやって、ここに来たの?ここは谷底一面が緑の深い森だから、人間は絶対に来られないはずよ」
にっこり、えくぼをつくって、女の子はこたえたの。
「あたし、今は仮に人間の姿をしているけれども、本当は人間じゃないのよ。だから、どこへでも好きな所に行けるの。あたし人間がだぁい好き!あたしね、人間の心の中に棲む子どもの心なのよ・・・ あたしね、今までユリさんという女の人の心の中に棲んでいたのよ。でも・・・ユリさんは、もうあたしのこと必要ないんだって。ついこの間までは、あたしのこと、大好きって言ってくれていたのに」
女の子はそう話すと、しょんぼりしてうつむいてしまったよ。

ヒグマの母さん、女の子をやさしくしっかり抱きしめて、聞いてみた。
「どうして、ユリさんはあなたが必要なくなったのかしらねぇ?」

女の子は、大きくため息をつくと、
「あのね、それはあの男の人のせいなのよ。ユリさんね、もうすぐその人と結婚するんですって。その男の人、あたしのこときらいなの。ユリさんとあたしが仲良くするのが気に入らないんですって。
結婚したら、これからは妻として母として生きるのだから、もう、そんな少女っぽいメルヘンの世界で遊ぶのはおよしよって、その男の人は言ったの。だからユリさんは、今までに書きためた詩集も童話集もぜんぶ、捨ててしまったのよ。でもその時のユリさん、とってもかなしそうだったわ」

ヒグマの母さん、すっかり考えこんでしまったよ。
「ふーん、人間の世界では結婚するって、夢みる少女の世界を捨てなくちゃいけないのかねぇー」
「ううん、みんながみんなそうじゃないわ。時にはあたしたち、ずっと一人の人の心に棲み続けられることもあるのよ。その人が一生を終えるまでずっとよ。でもねそんな人って、まわりからはすこーし変人あつかいされることもあるのよ」
「ふーん」
 と、ヒグマの母さん、またまた考えこんでしまった。
「でもねぇ、あたし、だいじょうぶよ。きっとまた、すぐに誰かとお友達になれると思うの・・・」女の子は、自分に言い聞かせるように、そうきっぱりといったよ。

 ヒグマの母さん、女の子をふたたびしっかり抱きしめて、ほおずりすると静かに話しかけたよ。
「かわいそうにね・・・。いいよ、好きなだけここにいなさい。うちの坊やも、遊び相手がいなくって、とてもさびしがっているから、二人ですきなだけ遊び回りなさいよ。この母さんは、毎日、二人のためにおいしい果実をさがし集めるからね」

ヒグマの坊やと女の子は、仲良しこよし。
毎日、一緒に遊んだり、お腹がパンクしそうなくらい果実を食べたりして・・・遊び疲れたら、よりそってウトウト・・・。
ヒグマの母さん大いそがし。毎日おいしい果実をさがしに、あっちの丘、こっちの谷間と、歩き回っているよ。でもなんだか楽しそう・・・

ある日のこと。ヒグマの母さんが、よいこらしょと、大きな葉っぱに山ほどの果実をのっけて、洞にもどってみると・・・あれあれ?
坊やがひとりぽっちで、コックリコックリ・・・。あの女の子の姿はどこにも見当たらないよ。真っ赤なベレー帽が、ぽつんと残っているだけ。
「ねぇ、坊や、ちょっと起きておくれ!あの子は、どこへ散歩におでかけ?」

目を覚ました坊やは、目をパチクリしてあたりを見まわしたよ。
「あれっ?おかしいな?さっきまでぼくと一緒に、遊んでいて・・・それから、ここで二人ともいねむりをはじめて・・・それじゃあ、あれは夢じゃなかったのかなぁ?」
「まぁ、坊や!どうかしたの?」

さて坊やは、眠い目をこすりこすり、話し始めたよ.
「さっきね、とっても不思議な夢を見ていたんだよ。その夢の中で、あの子と二人、大空を自由に飛びまわっていたんだ・・・。
はじめは、二人で原っぱにすわって歌をうたっていたんだけど・・・そのうち、あの子ったら急に立ち上がって、とっても幸せそうにスカートをヒラヒラさせはじめて・・・やがていつのまにかチョウチョのように、空中を舞い踊りはじめたんだ。
僕はあっけにとられて目を丸くしていたよ。そんな僕の手をあの子が握ったらんだ。そうしたらね、驚いたことに僕まで空中に浮かんでしまったんだよ。
二人で森の木のてっぺんよりもずっと高い空の上にのぼって、あちらこちらと飛びまわったんだよ。
とってもすてきな気分だったなぁ!Picture37blog

しまいに、またこの木の下に降りてきて、あの子はそっとつぶやいたんだ。『さようなら・・・』ってね。
『えっ、どうして?』って僕がきいたら、こう答えたんだよ。
『あのね、あたしの棲む新しいお家がみつかったのよ。
あのユリさんが、かわいい女の子を産んだの。だからね、あたし、その子の心の中に棲むことに決めたの。ユリさんのそばにいつもいられるなんて、あたし、とっても幸せ・・・。
でも、あなたと別れるのは、ちょっとつらいわ。せっかくお友達になれたのにね! あたしの大切なベレー帽を、あなたにプレゼントしていくわ。じゃあ、さようなら・・・』

そしてあの子は、またフワフワ・・・と高い空にのぼっていったんだ。ぼくはね、それを夢だとばかり思っていたんだ。でも・・・あれは本当のことだったみたいだね。だってここに、ちゃんとあの子の真っ赤なベレー帽が残っているもの。
ねぇ、母さん、僕さびしいよ。あんなに仲良しだったのに!せっかく、すてきな遊び相手が見つかったと思っていたのにね」

ヒグマの母さん、坊やを強く抱きしめると、ほほえみを浮かべてこう話しかけたよ。
「ねぇ坊や、あと半年ほどお待ちよ。そうしたら、お前にかわいい弟か妹が、できるはずよ」

その晩、ヒグマの母さんと坊やは、よりそうようにして静かな眠りについたよ。二匹のそばには、あの真っ赤なベレー帽がそっとおかれていたよ。
きっと二人とも、あの女の子の夢を見ているにちがいないね・・・Picture38blog                          
                                  
                            <おしまい>

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2007年11月 9日 (金)

<童話> コン吉と小夜

                              夕日  作

キツネのコン吉は、父ちゃん、じいちゃん、そしてそのまたじいちゃんと、代々続くコンコン神社の生き神様。コンコン神社は、小さな村の中心の小高い山の上にあったよ。

Picture23blog
じいちゃんに続いて、父ちゃんと母ちゃんが、病気で次々と急死したので、一人ぼっちになってしまったコン吉は、まだ小さいうちから生き神様になったんだ。見よう見まねで、じいちゃんたちがやっていたように、村人たちの悩みを聞いてやり、そのかわりに、わずかな食べ物のお供物をしてもらって暮らしていたよ。
でもね、相談に乗ると言ってもまだ子どものこと、ちゃーんとした答えができるはずもないからさ、いつもこう答えることにしていたよ。

「ふんふん、それは気の毒なこと!コンコンコン・・・もしも、3日間かかさずこのコンコン神社にお参りに来たなら、コンコンコン・・・・もちろん必ず何か捧げ物を持ってだが・・・お前の悩みはきっと解決するであろう。コンコンコン・・・」

大声でコンコンコン・・・と叫んで、その合間にすばやく言葉を話すのさ。それも、なるたけ低くて太い声を出すんだよ。そうすれば、まさか子どものキツネがしゃべっているとは、感づかれずにすむからね。そして、その次の日から3日間、コン吉は大好物のアブラゲやら、ホカホカのお饅頭にありつけるわけなんだ。

こんな風にして、何年かが過ぎたよ。
若者になったコン吉は、今ではすっかり生き神様になりきっていたのさ。
でもね、生き神様だったコン吉は、けっして村人の前に姿を見せることができなかったから、いつもひとりぼっちで、さびしかったよ。

ある日のことだったよ、コンコン神社に一人の若い娘がやってきたんだ。
色のあせた、つぎはぎだらけの着物を着てたけど、おかっぱ頭の笑顔のかわいい娘だったよ。でも今日はね、いつもの笑顔はなくて、そのかわりに二つのつぶらな瞳に、涙をいっぱいためていたんだ。Picture24blog
「あのぅ、コンコン様!心からのお願いがあります。
 どうかどうか、私の願い事を聞きとどけてくださいな!」
 コン吉はいつもと同じに、せいいっぱい太い声でこう答えたよ。
「我は絶大な神通力をもつ、コンコン様であるぞ。さあ、お前の悩みを話してみなさい。おっと、その前に、お供え物は忘れずに持ってきたことだろうな?」
するとね、その娘は悲しそうにうつむいて、今にも泣き出しそうになったんだ。
「やっぱり、お供え物がないとダメなのね。でも・・・それがわたしの悩みなの。
 お母ちゃんと私ね、二人暮らしなの。お父ちゃんは、わたしのまだ小さい時に、仕事中に突然倒れてきた木の下敷きになって、死んでしまったのよ。
それに、今ではお母ちゃんも、重い病気になってずっと寝たきり。
ちっとも良くならないの。でも、仕方がないの・・・・・。だって、お母ちゃんに栄養のある物を食べさせられないばかりじゃなくて、お医者さまに診せるお金もないんだもの。だからコンコン様に、何にもさしあげられないわ」
そこまで言うと、若い娘はとうとう、シクシク・・・・泣き出したよ。

それを聞いてコン吉は、こうどなるつもりだった。
「何だと?お供え物が一つもないだと?話にならんぞ。すぐに帰れ!」
それなのに、実際に口から出た言葉は、こうだったのさ。
「なにぃ?家に何にも食べる物がないだって?お前の母ちゃんの病気は、いったいどうなるんだ。それじゃ、治るはずがないだろう。

コンコン・・・コンコン・・・ えーいっ、やぁっと!

じ、じつは、さっきお前の来る少し前に、村のばあさまがこのコンコン様のために、つきたてのあんころ餅と甘いブドウをたくさん持ってきてくれたのだが、特別にお前に進ぜよう。すぐに家に持って帰って、母ちゃんと二人で食べるがよいぞ。ただし、その代わりに毎日お昼過ぎに、ここにお参りに来るんだぞ。そして母ちゃんの病気の具合を報告するんだぞ!」
そう言ったとたん、コン吉のお腹がグウーゥゥゥと鳴ったよ。
コン吉ったらさ、大あわてでお腹を押さえたんだ。

「さあー早く行けぇ!コンコンコン・・・」

娘は、涙を流してよろこんだよ。そしてコン吉が隠れている神棚に向かって、何度も何度もおじぎをしたんだ。
「コンコン様、本当に本当にありがとうございます!明日もあさっても必ず、ここにお参りに来ます。そして、お母ちゃんが元気になって働けるようになったら、きっときっと、たくさんのお供え物を持ってきます。約束しますから・・・・・・」
 娘は、あんころ餅とブドウを大切そうに抱えると、山をかけ下りていったよ。

「あぁ、良かったな。これでおいら、今晩も明日の朝も、飯にありつけないけど、まぁいいさ!おいら、ちょっぴり太りすぎで、お腹が出てきたしさ、少しやせないとタヌ公と間違われるかもしれないしね。ココンのコンコンと・・・
コン吉は、お腹は空いているのに、なんだか心がウキウキしてきたんだよ。
(へんだなぁ?こんな気持はじめてだなぁー。)
そう思いながら、コンコン神社のあたりを見まわすとね、今まで気づかなかった野の花たちが目にはいったんだ。
Picture30blog
「へぇ、こんなきれいな花が咲いていたなんて、ちっとも気がつかなかったやい!
なんだかおいしそうにみえるなぁー。ちょっと食べてみようかな?」
お腹がペコペコだったコン吉は、ピョンピョンあたりをとびまわりながら、次から次へと、いろんな花をかじってみたんだ。ちょっとやけくそになっていたんだね。
「フンフン、けっこういけるよ」 
たくさんの野の花の中には、蜜がたっぷり入っていて、舌がとろけるほどに甘いものや、とてもいい香りのするものがあったんだ。でもね、ひどくまずくって、ゲッと思わず吐き出してしまうものもあったよ。
おいしいのに当たったときは、とっても幸せな気分だった。

「この花は甘いかな?それとも、あっちのにしようかな?」
 と、コン吉は、あっちへ行ったり、こっちへ来たり大いそがしだったんだ。でもね、まるでパズルをしているみたいに楽しそうだったよ。
「キツネがね、それもコンコン神社の生き神様のキツネがだよ・・・・花を食べるなんて聞いたら、あの世にいるじいちゃん、ぶったまげるだろうな?」
コン吉はクスクス笑いながら、腕枕をして草むらに寝ころがったのさ。
「あの娘、かわいかったなぁー。明日も来てくれるかなぁー?」

やがて空が夕陽で真っ赤に染まる頃には、コン吉はすでに夢の世界で遊んでいたよ。どんな夢かって?ちょっとだけ教えてあげるね。広い広い花園で、あの娘と遊んでいる夢なんだ。Picture26blog

次の朝、コン吉は、ウキウキして目覚めたよ。
お堂の屋根で休んでいた小鳥の夫婦に「ねぇ、今日もあの娘が来ると思う?」と、とつぜん大声で話しかけたので、2羽はびっくりして、はるかかなたの森まで一気に飛んでいってしまったほどだった。

朝早くに、昨日のばあさまが、今度はたくさんのきなこ餅とリンゴを持ってきてくれたんだ。このばあさまの悩みとは、こうだったよ。
「コンコン様!家のおじいさんが1カ月前に亡くなってから、さびしくって、さびしくってねぇー。私たち夫婦には子どもがいなかったので、わたしは一人暮らし。でも、村の者はみんないそがしくって、こんな年寄りのグチなんて聞いてくれる者は一人としていないのさ。
幸い、おじいさんが広い畑を残してくれたので、食べるには困らないけれどもね。ひとりぽっちは、どうにもわびしくってね・・・・・。
でも昨日、コンコン様にたっぷりグチを聞いてもらったら、とても気持ちがすっきりしてねぇ。誰かに話を聞いてもらえるって、なんとうれしいのだろうね!」

そして、そのばあさまは、またいろいろとグチをこぼし始めたんだよ。
「おじいさんがのこしてくれた畑は、わたしのような年寄りばあさんには広すぎて、手が足りなくってね、今では草ぼうぼうなんだよ。村の若い衆はみな収入の多い町にあこがれて、遠くまで働きに出てしまったので、ここには年寄りや女子どもばかりしか残っていなくってね。だから、みんな自分の畑だけで手一杯なんだよ。
もし誰かが手伝ってくれる気があったら、畑でとれた作物の半分は、自分の稼ぎとして、手に入れられるのにねぇ。
それじゃ、コンコン様!今日もたくさんグチを聞いて下さり、本当にありがとうございます。明日もまた、来させてもらいますよ」
そしてばあさまは、ふたたびトボトボ・・・と山道を帰っていったのさ。

お供えのきなこ餅は、まだ暖かくてホカホカしていたよ。リンゴも甘酸っぱい匂いがプーンとして、コン吉の鼻をくすぐるんだ。
「うまそうだなぁー。どっちを先に食べようかな?」
と、舌なめずりしたコン吉の頭を、あの貧しい女の子の姿がよぎったよ。
「で、でもさ、このコン吉様だって、お腹がグゥグゥいっているんだよ」 そう言うやいなや「えいやっと!」と大急ぎで、きなこ餅を10個も次々と口に入れて、丸飲みしたから大変さ。喉詰まりをしてしまって、目を白黒させて・・・・やっとどうにか一息ついたというわけさ。
 そのくせに、
「あれっ?きなこ餅が全部なくなっちゃった!」なんて、言うんだからね。
「まあ、いいや!このリンゴをあの子にあげよう。でも・・・なんていい匂いがするんだろう。我慢できないや。3個あるから、1個くらいコン吉様が食べたって、かまわないだろうな。2個あれば、あの子と母ちゃんとで十分さ。 だってさ、このリンゴ、とっても大きいんだもの」
などとブツブツ言いながら、あきれかえったことに、そのリンゴも3個ぜんぶ、自分一人で食べてしまったよ。

さすが食いしんぼうのコン吉も、もうお腹が破裂しそうになって、バタンと横になってしまったよ。
それからしばらくして、あの娘がやってきたんだ。その笑顔を見たとたん、コン吉の胸はキュッ!と痛んだよ。

「おやさしいおやさしいコンコン様!昨日は本当にどうもありがとうございました。おかげさまでお母ちゃんも、久しぶりにお腹いっぱい食べられました。
お母ちゃんがこう言いました。
《このあんころ餅には、コンコン様の偉大なお力がこめられているみたいだよ》って。 そして少しふとんから起きあがって、こうも言ったのです。
《だってお母ちゃんね、これを食べたら体がフワリと軽くなって、少し元気が出てきたみたいなんだよ。なんだか、空気がおいしいねぇー》
 わたしの大切なお母ちゃんに、コンコン様の不思議なお力をお示しくださって、本当に本当に、ありがとうございます」
はずんだ声で一気にここまで話すと、何度も何度も祭壇に向かっておじぎをして・・・・それから再び、山をかけ下りていったよ。幸せいっぱいの笑顔でね。でもさ、その娘がお礼を言うたびに、コン吉の胸はキュウキュウと締め付けられるように苦しくなったんだ。

その娘の姿が見えなくなると、コン吉はしみじみとこう思ったよ。
(昨日はお腹がすごく空いていたのに、心の中はほんわかと暖かくって、歌でもうたいたい気分だったなぁ!それに比べて今日はお腹がはちきれそうなくらい満腹で、このコン吉様としちゃあ最高の気分のはずなのにさ、どうも、おかしいんだ。むしろ逆に、ズキンズキンと心が痛むのは、いったいどうしたわけだろう?なんだか心の中を冷たい北風が吹き抜けている感じだよ)

コン吉はその夜、草の上に寝ころがってお月様をながめながら、あの娘のことばかり考えていたよ。
(お月様、お月様!おいらってどうして、こんなに食いしんぼうなんだろう?
明日こそ、あの子にお供え物をたくさん、食べさせてやりたいなぁー!
あっ、そうだ!明日は、朝起きたらすぐに、草の実や花をお腹いっぱい食べるんだ。そうすれば、あのばあさまの持ってきてくれるお供え物を、きっと食べずに我慢できるよね。ねぇーお月様、いい考えだろう?)

その次の朝、コン吉は、あの娘の喜ぶ姿を思い描きながら・・・・せっせと野の花や草の実をお腹に詰め込んだんだよ。Picture25blog
ところが・・・・どうしたというのだろうね?いつもの時間が過ぎても、あのばあさまが現れないんだよ。コン吉は、お堂の裏側を行ったり来たりウロウロしているばかり・・・・。そうこうしているうちにお昼も過ぎて、またあの娘がやってきたんだ。今日もかわいい笑顔がこぼれていたよ。

「コンコン様!おかげ様で、お母ちゃんは少しずつ元気になっています。これもすべて、コンコン様のお力のおかげです。本当にありがとうございます」

するとコン吉は、うーんと低い声で、偉そうに言ったのさ。
「そうか、それはよかったぞ!ところで、良いことを教えて進ぜよう。ここからの帰り道に大きな岩があるが、その右手の方にピンクの野の花がたくさん咲いている。その花は、とても甘い蜜を持っていて、そのままで食べられるのだ。その花をたくさん摘んでいって、母ちゃんに食べさせなさい。そして残りは、煮詰めてカメに入れて保存しておきなさい。オッホン・・・コンコンコン・・・
「まあーコンコン様!ありがとうございます!早速、そうします。」
その子は、また何度もおじぎをすると、急いで山をかけ下りて行ったよ。

やがて・・・・・お日様が沈み、空が濃いスミレ色に変わりはじめたよ。
さて、コン吉は、あのばあさまことを考えると、急になんだか胸騒ぎがし始めたんだ。

「ねえ、お月様!あのばあさま、ひょっとしたら病気になったんじゃないだろうか?だってさ、今日ここに来ないなんて、絶対におかしいよ」
そう考え始めると矢も楯もたまらず、コン吉は夜の山道を、ヒョイヒョイとかけだしたんだ。

「えーと、あのばあさまの家は、いったいどこだろう?」
そこで、そのあたりで一番高い木の、てっぺん近くまでよじ登ったのさ。
ポツンポツンと村の明かりが見えたよ。コン吉はとても目が良くて、暗闇でも物がよく見えるんだ。それで、村の中で一軒だけ明かりのついていない家を、すぐにみつけ出したよ。
「あの家かもしれないぞ。だって、まだ寝るには早すぎる時間だしね」
コン吉は、大急ぎで木からすべりおりると、その家めざしてかけにかけたよ。

やっと、その家に着くと、戸をそっと開けて中をのぞいてみたんだ。すると土間に、あのばあさまが倒れているのが見えたのさ。どうやら気を失っているようだった。
「うわぁ、大変だぁ!どうしよう?」
コン吉は、ばあさまの脇をかかえて、ヨイショ、ヨイショと必死で部屋の中にひっぱりあげて、それから急いで押入から布団を引っ張り出すと、そこに寝かせてあげたのさ。
ばあさまは死んだみたいに、じっと横たわったままだったよ。このまま放って置くわけにもいかないし・・・・・。その時、コン吉は、ハッと思い出したのさ。
「そうだ!あの子だったら、いつも病気の母ちゃんを看病しているから、こんな時どうしたらよいか、よく知っているはずだよ」

そこで、コン吉は村人の家を一軒一軒のぞいて歩いたのさ。一軒ずつといっても、村の中でとりわけ貧しそうなボロ家ばかりを選んでのことだから、わりと簡単に見つかったよ。5軒目の壊れかかった戸のすきまから、コン吉はあの娘の明るい笑顔を見ることができたんだ。
コン吉は小さな石を拾うと、家から少し離れた草むらに隠れてから、戸にむかってほおり投げたんだ。カチン!という音を聞きつけて、あの娘が不審そうな顔をして、戸を開けて外に出て来たんだよ。
その時さ!コン吉は、いっしょうけんめいに低いえらそうな声を出したんだ。
「我は、コンコン様であるぞ!さて、折り入ってお前に頼みたいことがあるぞ。
じつは、村はずれの泉の近くに住む一人暮らしのばあさまが、病気で倒れている。すぐに行って、看病をしてやってくれないか?コンコンコン・・・
重々しい声が、夕闇に響きわたったのさ。

娘はびっくりして、腰を抜かさんばかりだったよ。でも、すぐさま家の中に入って、母親に何か言ってから、薬箱を手にすると、おおあわてであのばあさまの家に向かったんだ。コン吉は、ばあさまのことがとても気になったので、その娘の後をそっとついて行ったよ。

(あの娘、名前をサヨっていうんだな。家の中からあの子の母ちゃんが、そう呼びかけていたな。サヨって、かわいい名前だな!)

小夜(サヨ)は、ばあ様の家に着くと、まず気付け薬をかがせたよ。それから、やさしく体をさすってあげて、「おばあさん!おばあさん!」と声をかけたんだ。
やがて、ばあさまは目をさましたよ。
「まぁ、わたし、どうかしたのかねぇ?気分が悪くなって、フラッとしたところまでは覚えているのだけれども・・・・。
娘さん!あなたがこのばあさんを、ここに寝かせて下さったのかい?」
「いいえ、私じゃありません。 あっ!じゃあ、きっとコンコン様にちがいないわ。私の所に、おばあちゃんが倒れたので、すぐに看病に行ってあげてほしい!と言いに来て下さったのが、コンコン様だったのよ」
「ああ、そうだったのかい、そうだったのかい。コンコン様って、本当にやさしくって思いやりのある方だねぇ。元気になったら、またたくさんのあんころ餅を作って、お供えしましょうね」
「まあ、もしかしたら、私があのコンコン様から頂いたあんころ餅は、おばあちゃんが作って下さったものなの?」

そこで、小夜は、あんころ餅のいきさつについて、話し始めたんだよ。
それを聞いたばあ様の目には、みるみるうちに涙があふれはじめたんだ。
「それはそれは本当に良かったこと!小夜さんの母さんも少し元気になったなんてね。それにしても、コンコン様の思いやりの深いことといったらないねぇ」
「ところで、おばあさん!何かおかゆみたいなものでも作りましょうか?」
「そうかい?うれしいわねぇ。じゃあ、ついでに小夜さんとお母さんの分も一緒に、3人分作って下さいな。お米はね、タップリと食べきれないほどありますからね」

小夜は、その晩遅く、アツアツのおかゆの入ったお鍋と、たくさんの野菜とを腕一杯に抱えて、幸せな気分で家路に着いたよ。
ところで、こっそりのぞき見をしていたコン吉は、小夜が湯気の立っているおかゆをばあさまに食べさせている間も、そのおいしそうな匂いに、お腹がグゥーとなりそうなのを必死でこらえていたんだ。

コン吉はいつもなら、お腹がすいているとひどーく不機嫌になるのだけれども、今晩は違ったよ。食べ物の代わりに、何かもっと別のふんわりと暖かいものが、お腹いっぱいにみちあふれていたのさ。
空腹なのに、ニコニコしていたんだよ。
コンコン神社への帰り道、コン吉は手あたり次第に道ばたの草をちぎっては、ムニャムニャかじりながら、夢見心地で歩いていたのさ。
それでね、何度も木の幹にコツンコツンと頭をぶつけてしまったよ。
「痛いや!大きなこぶができちゃったよ」
なんて言いながら、でもコン吉はニコニコ笑っていたんだ。Picture28blog

それからしばらくの間、ばあさまがすっかり元気になるまで、小夜は毎日、ばあさまの家へ通って、身のまわりの面倒を見てあげたんだ。そして、夕方になると、プーンといい匂いをさせた雑炊のお鍋を抱えて、幸せ一杯でお母ちゃんの待つわが家へ、いそいそ帰ったんだよ。
ばあさまが良くなるのと一緒に、小夜のお母ちゃんもメキメキ病気が回復し始めたよ。毎日、栄養タップリの食事を、口にすることができるようになったせいだね。

コン吉も、毎日のように、おばあさんの家にこっそりやってきては、窓から家の中の様子を、そっとながめていたんだよ。
(あの娘、なんてかわいらしく笑うんだろう。そして、なんてやさしくばあさまに話しかけることだろう)
コン吉は、知らず知らずうっとりとした表情をして、小夜をみつめていたんだよ。

それからしばらくして・・・・コン吉は、だんだん奇妙な感じに気づき始めたんだ。
「お月様!おいら、病気なんじゃないだろうか。胸のあたりがね、ときどきジーンと熱くなったり、妙にかきむしられるよう奇妙な感じがあるんだ。
それにね、急に食欲もなくなってしまったんだ。この食いしんぼうのコン吉様がだよ。
ねぇ、お月様!おいら、もしかしてもう命が長くないんじゃないだろうか?」
コン吉は、夜になると、お月様にこう話しかけていたんだよ。

実はね、コン吉の場合は恋わずらいという、若者がよくかかる病気だったんだけどね、コン吉自身は気づいていなかったんだ。
コン吉はだんだんやせてきて・・・・お堂で村人のグチを聞いてあげるだけで、せいいっぱいで、もう山を下りてばあさまの所へ行く元気もなくなり始めたよ。
今ではコン吉が、お供え物の大部分を、お参りにやってくる貧しい村人に恵んであげるものだから、コンコン様の評判はますます高くなったよ。
遠くの村からも、いろいろな人がお参りにやってくるようになっていたしね。
その頃にはすっかりやせこけてしまったコン吉は、「信心さえしていれば、必ずしや願いはかなうであろう!」と、ただ一言、小さな声で、静かに話しかけるだけだったんだ。 

それからまた、数週間が過ぎたよ。
あるさわやかな朝、骨と皮ばかりになったコン吉が、神棚の後ろでうつらうつらとしていた時のことだった・・・・。聞き覚えのある軽い足音と、もう一つ力強い足音とがし
て、2人の若者がお堂にやってきたんだ。
コン吉はあわてて、起きあがって目をパチパチさせた。
急に胸がどきどきし始めたよ。
そうなんだ!一人はあの小夜だったんだ。ただもう一人は、見かけたことのない青年だった。小夜は、瞳をキラキラ輝かせながら、話し始めたよ。

「コンコン様!今日は、心からのお礼を申し上げにやってきました。あのおばあさんは、すっかりお元気になって、今では畑仕事もできるようになっています。おばあさんから、あんころ餅を預かってきました。どうぞ召し上がって下さい!
 お母ちゃんも、今では起きあがって家の近くを散歩できるまでに、病気が良くなっています。これもすべて、心やさしいコンコン様のおかげです」
それを聞いて、コン吉はうれしくて、心がはりさけそうになったんだ。
「それはそれは、良かった!コンコンコン

「ところで、コンコン様!私、とっても大事なご報告があります。
じつは、いま私の隣にいる人は、あのおばあさんの甥っ子です。おばあさんが病気の間、となり村から畑仕事を手伝いに来てくれていたのです。とてもやさしい人です。あのぅ、私、この人のお嫁さんになることになりました。
この人は、この村に住んで、おばあさんの畑で働くことになりました。
これもすべて、コンコン様のおかげです。
本当にいろいろありがとうございました・・・・・」
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コン吉は、もう、最後の言葉は聞き取れなかったよ。
お嫁さんという言葉を聞いたとたん、心臓にビリリ、ドカンと雷が打たれたようだったのさ。 もはや、何にも考えられず、せいいっぱい頑張って・・・
「それは良かったな!こんこんこん・・・・
とだけ言うと、後は気を失って倒れてしまったよ。

その夜、お月様はいつもに増して、やわらかな光を出して、コン吉のまわりをつつんでくださった・・・のさ。そしてコン吉はその時はじめて、自分が小夜を死ぬほど好きだったことに気がついたんだ。Picture29blog
コン吉はお月様に見守られながら・・・・涙が涸れるまで泣き続けたよ。

さて、朝がやってきた時、コン吉はどうなったのかって?
泣きつかれて眠ってしまったコン吉だったけれどね・・・・ググゥーググゥーとお腹がわめきたてる音に、目覚めたんだ。
(ああ、お腹が空いちゃったよ!もう、何日も食べていない気がするなぁー。
何か食べる物は?おっ!昨日小夜が、タップリとあんこのつまった草餅を、持ってきてくれたのが、供えてあるぞ。おまけにその横には、熟した果物が山盛りになっているし・・・・・)
と言うやいなや、コン吉は草餅そして果物と、次々に平らげてしまったんだ。
(あー、お腹が一杯になったら、何だかまた眠くてしまったよ。
 ムニャムニャ・・・・・)

おやおや、なんてことだろうね。満服になったコン吉は、そのままだらしなく眠りこけてしまったよ。
「なあんだ、コン吉ってずいぶんと変わり身の早いやつだ。小夜のことだって、たいして好きなわけじゃなかったのかもしれないね。」
なんて言わないでほしいな。
コン吉は本当はね、とっても深く傷ついていたんだよ。でも思いきり泣きに泣いて、コン吉はこう思ったんだ。
(おいら、キツネだし、人間の娘の小夜をお嫁さんにできるわけもないしね。
それに比べて、あの若者はまずは人間だし、気立ても良さそうだし、小夜をとても好いているようだし・・・・・。おいらは、えらーいコンコン様なんだから、自分の幸せは二の次にして、村人たちみんなの幸せを考えてあげなくちゃいけないんだ。
そうだよ!おいらには、父ちゃん、じいちゃん、ひいじいちゃんと引き継いできた大切な仕事があったんだ。それを忘れちゃいけなかったよ。
さあー!明日からは、新しい気持ちで頑張らなくちゃー!それにはこんなやせっぽちじゃダメだ。もっとたくさん食べて、体力をつけよう)

コン吉の心の中には、こんな気持ちがしっかりと芽生え始めていたんだね。
コン吉のことすっかり、見直しちゃったよ!
きっと・・・・眠りから覚めたら、コン吉は今まで以上にコンコン様らしく、人々の悩みを聞いてあげられるに違いないね。
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                         <おしまい>

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2007年11月 8日 (木)

<童話>ポン太とトランペット

                                                    夕日 

タヌキのポン太は、いたずらっ子。そして、とってもきかん坊。タヌキ山の子ダヌキの中で一番力が強くて、けんかなら誰にも負けないよ。だから、ポン太はタヌキ山の小さな王様さ。いつも大ぜいの子ダヌキの家来を、後ろに従えていばっているんだ。
 とりわけポン太の腹ぢからは、すごいんだ。ちょっと気に入らない子ダヌキがいる時にはね、思いっきり空気を吸ってお腹をパンパンにふくらませて、相手の子ダヌキのお腹をグイッと押すのさ。すると子ダヌキは、たちまちスッテンコロリン・・・いつもポン太の勝ちだよ。

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ポン太は王様だから、お腹をポンポコポン・・・と叩くと、家来の子ダヌキが急いで集まって来るんだ。その時にはね、家来たちは必ず木の実や草の実を少し、王様にささげなくてはならないのさ。もしもなにも持ってこなかったら大変だよ。すぐにポン太王様の腹ぢからで地面にスッテンコロリンとされちゃうよ!おまけにその日はずっと、仲間はずれにされるんだ。だからね、だれもポン太の命令にはさからえないのさ。

ある日のことだったよ。ポン太は、すてきな金色に輝くものを手に持って、家来たちの前にあらわれたのさ。それはトランペットだったんだ。子ダヌキたちが、口々にこう言い始めたよ。

「きれいだなぁ!きらきら光っているよ」
「ねぇーそれをどうしたの?まるで新品みたいだ。いったいどこで、そんなすごいものを手に入れたの?」
「ねぇーもっとよく見せてよ。いいなぁ!」

 するとポン太は、トランペットを高々とさしあげて、自慢げに言ったのさ。


「実はね、さっき拾ったのさ。道ばたの枯れ葉やゴミをきれいにしていたら、なんとこれが落ちていたと言うわけさ。・・・ゴホッ!」

 でも・・・なんだか少し変だよ。だってさ、いつも食べかすを道に捨ててばかりいるポン太が、お掃除をしてたら・・・なんていうんだもの!でもね、トランペットの美しさに心をうばわれている子ダヌキたちは、そんなことには、ちっとも気づかないのさ。

「こんないい音が出るんだよ。」
 と言って、ポン太はトランペットを吹いてみせたんだ。

 
ッテケテー  トッテケテー
それは子ダヌキたちにとって、初めて聞くすてきな音色だったよ。とても力強い、心にしみる音だったのさ。

 
一匹の子ダヌキが、おそるおそるポン太にこう頼んだ。
「ねぇ、ちょっとだけさわらせてよ。ぼくにも吹かせてほしいなぁ」
「だめだよ!これは、おれ様が拾ったんだからね。おれ様だけの宝さ」
  ポン太はそう言うと、またゴホッと変な咳をしたのさ。

  さて、このゴホッはいったい何なのだろうね?とてもおかしな咳だよ。
  本当のことを言うとね・・・・ポン太は、このピカピカに光る物を拾ったわけではないんだ。その時のことを思うと、ポン太は心がチクッとするんだ。でも、ほんのちょっぴりだけだよ。そんなのは、すぐに直っちゃうからさ。

 夕方になるとね、ポン太はいつもさびしい気持ちになるんだ。なぜってね、家来の子ダヌキたちが、みんな親ダヌキの待つ穴へと帰ってしまって、ポン太はひとりぽっちで残されてしまうからさ。というのも、ずっと以前ポン太の父さんと母さんが、人間に捕まってどこかへ連れていかれてしまったからなんだ。うわさによれば、殺されて太鼓の皮になってしまったらしいよ。それを聞いた日、ポン太は穴の中で、一人で思いっきり泣いたんだ。

そして、その次の日から、ポン太は突然あばれん坊になってしまったよ!どうしてかって?ポン太自身にも、よくわからないんだ。

昨日の夕方のことだったよ。お日さまがね、山すそに少しずつ顔をかくそうとしていた頃に・・・一人の人間の男の子が、山道の大きな木の後ろで休んでいたポン太のそばを通りかかったんだよ。その人間の男の子は、手になんだかキラキラ光る物を持っていたんだ。その男の子は黒づくめの洋服を着ていて、目にも何かがキラリと光っていたよ。Picture2b

「どこへ行こうというのかな?よし!人間に仕返しするいいチャンスだ」ポン太は、そう思った。それで、こっそりその子の後をつけたんだ。
 男の子は山の頂上まで登り、それから心をこめてトさランペットを吹き始めたよ。とっても澄んだ心にしみる美しい音だった。
「お父さん!僕の吹くトランペットの音が聞こえましたか?どうぞ、やすらかにお眠りください。僕、お父さんみたいに、もっとトランペットを上手に吹けるように頑張ります」

 
男の子はトランペットをかたわらの草の上に置くと、夕焼けの空に向かって、こう思いっきり叫んだんだ。その時だった!ポン太は、さっと男の子のそばにかけよると、置いてあったトランペットをひったくると、山道をかけにかけたんだ。男の子の泣き叫ぶ声なんか、ぜんぜん聞こえないふりしてさ。
ポン太は、やさしさなんてどこかになくしてしまったのかな。でも・・・本当はその晩ずっと、あのトランペットを吹いていた男の子の悲しそうな泣き声が気になって、なかなか眠ることができなかったんだよ。
「仕返しなんて、ちっとも楽しいことじゃないや!」ポン太はつくづくそう思ったんだ。
 
 
朝がやってくると、ポン太は自分にいっしょうけんめい言い聞かせたのさ。
(あれはーーーーー取ったんじゃないよ。道ばたに落っこちていただけなのさ。うん、そうさ!誰かが落っことしたんだよ。ぼくはたまたま通りかかって、それを拾っただけのことさ!)

 それから数日たったある夕方、ポン太が山の頂上近くにある大きな木の枝に腰をかけて、ぼんやりとスミレ色の空をながめていると・・・あの男の子がすぐ近くまでやってきたんだ。ポン太の姿は、木のかげにかくれていて、男の子からは見えなかったよ。
「ねぇータヌキさん、お願いです!もしも聞こえていたら、心からのお願いです。僕の大切な大切なあのトランペットだけは、どうか返してください!そのかわり、僕の持っているおもちゃは、何でも好きなのをさしあげます。僕の家は、この山のふもとにあります。緑の屋根に白い屋根の小さな家です。垣根に赤いバラを伝わせていますから、すぐわかります。僕の部屋の窓を開けておきますから、そこに返してください。あのトランペットは、パパの形見なのです。パパはついこの間、病気で亡くなりました。そして今は、あの高い空の上にいるのです。パパは音楽家で、病気療養を兼ねてこの村に住んでいて、村の子どもたちに笛を教えていたのです。パパはトランペットを吹いていました」
  男の子は一生けんめいに、そう話したよ。

(ふーんだ!いくら頼まれたって返すもんか!いい気味さ)
  ポン太はプイッと横を向いて、聞こえないふり・・・。

  男の子は、次の日もその次の日も、薄暗い山道を登って来たんだ。そして、「どうか、あのトランペットを返してください。」と涙ながらに頼むのさ。でも・・・ポン太はあいかわらず知らんふり。そして、家来の子ダヌキたちからせしめた木の実を、おいしそうにかじっているばかり・・・。
(ふーんだ!おれ様はいじわるなんだもん、誰が返すもんか)
  男の子は、目に涙を浮かべながら、トボトボ帰っていくしかなかったんだよ。

  ある夜のこと、ポン太はピカピカにみがきあげたトランペットを抱えて、巣にしている穴を出たんだ。星の美しい夜だったよ。ポン太は山の頂上に行くと、思いっきりトランペットを吹きはじめたのさ。お腹をふくらませたり、ひっこめたりして、一心不乱に吹き続けたんだ。それから・・・どうしたというのだろうか?穴には帰らずに・・・人間たちの住む里の方へと歩いていくのさ。しきりとこう、自分に言い聞かせながら・・・ね。
(おれ様は、たまたま、こっちの道を歩いてみたかっただけなのさ。なにも、あの子の家へ行くわけじゃないよ)

  やがて・・・ポン太の足は、緑の屋根に白い壁の家の前で止まったよ。お月様がそのやさしい光で、ポン太の行く手をてらしてくださっていたんだ。垣根によりそって、色とりどりのつるバラが静かに眠っていたよ。ポン太は、キョロキョロとあたりを見まわした。そして、そのかきねに一ヶ所、庭への出入り口をみつけて、そこからそっと中に入ったんだよ。あの子の部屋はすぐわかったよ。なぜってーーーーーその部屋の出窓だけが開いていて、大きなおもちゃ箱が出ていたからさ。そして、きっと明かりのつもりだろうね・・・そばに虫かごが置いてあってさ、その中にホタルが何匹もいたよ。

 
それから、ポン太はトランペットを抱きしめて、そっとなでてみたんだ。
(返すんじゃないのさ。もう、トランペットを吹くのにあきてしまっただけなのさ)そう、つぶやくとポン太は、思い切ってトランペットを出窓の所に置いて、帰りかけたよ。でもちょっと思い直して、おもちゃ箱の中をのぞいたんだ。ポン太がはじめて見るおもちゃが、たくさん入っていたよ。いろんな種類の自動車、ロボット、ぬいぐるみ人形、飛行機、ゲーム・・・。その中でポン太は、一つの太鼓だけを手にしたよ。それを大事そうにかかえると、自分の穴へ急いで帰ったんだ。

  ポン太は穴に戻ると、太鼓を指でそっとたたいてみたんだ。
  トテトテトン・・・やさしい音がしたよ。

  ポン太はニコッと笑うと、今度はバチで軽くたたいてみたんだ。
  トケトケ トトトン・・・・トケトケ トトトン・・・

  それは、こういう風にも聞こえるよ。

  
  トケトケ トトトン ポン太 元気かい?
  トケトケ トトトン お父さんたちはね、太鼓の皮になってしまったけど
  トケトケ トトトン 今は幸せだよ
  トケトケ トトトン と毎日子供たちにはなしかけているよ

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  トントン トケトケ ポン太もいい子 トトトン 大好きさ   
   
 
 
いつのまにか、ポン太は眠ってしまったんだよ。次の朝、ポン太は目をさますと、すぐにあたりをキョロキョロ見まわしたんだ。だいじょうぶ!太鼓はちゃんとそばにあったよ。ポン太は太鼓をだきしめて、その皮にそっとほほをくっつけた。それから、やさしくたたいたよ。
 
 
トケトケ トトトン・・・ポン太はなんだか、とってもうれしくなったよ。
 トケトケ トトトン・・・トケトケ トトトン・・・

 
食いしんぼのポン太なのにさ、この朝は変なんだ。だってね、お腹がすいているのも忘れてさ、穴から飛び出していったんだ。そしてね、ポン太はいいにおいのする草をたくさん集めてきて、巣の穴の一カ所に敷きつめたんだ。そしてその上に、そっと太鼓をおいたんだよ。それからね、ちょっと考えて・・・また野原へかけていったよ。しばらくして腕いっぱいに色とりどりの野の花をかかえてきて、太鼓のまわりにかざったよ。

  やがて、ポン太はいつもの場所へ行くと、お腹をポンポコポン・・・とたたいたんだ。さぁ、家来の子ダヌキたちの集合だ!
「あれっ?ポン太の王様!あのキラキラ光ったすてきなものは、どうしたの?」
一匹の子ダヌキが、そうきいたよ。
「ううーん、ゴホッ・・・あれのことかな?」
 ポン太は、またわざとらしくゴホッとせきをして
「あれはね、ゴホッ、もうあきちゃったからさ、昨日の夕方、谷川に捨てたよ!
もう、今頃は流れ流れて深い海の底さ」と、言ったんだ。
「えっ、本当?もったいないなあ!」「おしかったなあ!」
  子ダヌキたちは、口々にそう言いはじめたよ。

  するとポン太は、一段と大きな声でさけんだんだ。
「お前たち、うるさいぞ!静かにしろよ。
 おい!ところで、今日もちゃんと木の実を持ってきただろうな」
 
 
するとね、一匹のやせた子ダヌキが、泣き出しそうな声で、こう言ったよ。
あ、あのぅー、ごめんなさい。ぼく今日は持ってこられなかったの・・・。
 でも・・・仲間に入れてほしいよ」
 
 
さて、ポン太はどうしたことだろうね?ポン太は少しやさしくなったかな?
  いや、ポン太はいつもと同じように、お腹を空気でふくらませるとエイッと、その子ダヌキのお腹を押したのさ。もちろん子ダヌキは草の上に、スッテンコロリン・・・。
  でもポン太は、いつものように仲間はずれにはしなかったよ。
「ゴホッ、あのさ、おれ様はね、仲間に入れたくないんだよ。でもさ、みんなが入れてあげなよって顔をしているからね・・・特別に今日だけ、仲間に入れてあげるよ」

  それから何日が過ぎ・・・ポン太は相変わらず、木の実を持ってこない子ダヌキを、グイッて腹ぢからでいじめているよ。いや、本当は、いじめているふりをしているだけなのさ。げんに、お腹だって、ほとんどふくらんでないよ。
  それに「あーあー、どいつもこいつも弱くって、とてもおれ様の相手にはならないよ」なんて言いながら、ころがした相手を手で起こしてあげているくらいだもの。

 
ポン太にもさ、男の意地というものがあるんだよ。強くてあばれん坊の王様が、急に弱くなったりやさしくなったら、みっともないだろう?
 
でもさ・・・スッテンコロリンって家来の子ダヌキがころぶたびに、本当はね、ぽん太の心のほうが、何倍も何倍もズッキンズッキンといたむんだよ。

   

(ごめんね。本当は木の実なんてどうだっていいんだ。ちっともほしいわけじゃないんだ。でもね・・・)

 そう、心の中でつぶやいているんだよ。

  いつか、ポン太がもう少し大人になったら・・・きっと照れくさがらずに、皆にやさしくできることかもしれないよ。

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                                 <おしまい>

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